木でつくる・木をみせる・木がつなぐ

KUS 代表取締役、チーム・ティンバライズ 理事 内海彩 氏(写真:菊池一郎)
KUS 代表取締役、チーム・ティンバライズ 理事 内海彩 氏(写真:菊池一郎)
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内海(KUS 代表、チーム・ティンバライズ 理事):私は、KUSという設計事務所のほかに、チーム・ティンバライズというNPOの活動もしている。こちらは、木の建築の新しい可能性を世の中に発信していくような活動となる。

 最初に、この研究会を通じて見学した建物について紹介する。1つ目は住田町役場。こちらは町の面積の9割を森林が占める。その町役場は「燃えしろ」という火事になった時にゆっくり燃えて構造的に大事な部分は担保される構造になっている。また、スプリンクラーを設置することによって内装制限が緩和され、内部も十分木質化された建物になっていた(関連記事:町産の中断面木材を使った純木造役場)。

住田町役場(資料:チーム・ティンバライズ)
住田町役場(資料:チーム・ティンバライズ)
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 次に、陸前高田市の高田東中学校だ。1つの長い建物だが、途中に燃えにくい部分を挟んでいくことで、内部の木質化を図り、天井部分の梁を現しにしている。敷地に高低差があり、1階にも2階にもそれぞれ生徒がすぐに逃げられる計画として、このような内部の木質化された空間が可能になった事例だ(関連記事:気仙スギで大屋根を架けた中学校)。

高田東中学校(資料:チーム・ティンバライズ)
高田東中学校(資料:チーム・ティンバライズ)
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 最後に紹介するのは、私が設計した世田谷区下馬の5階建ての集合住宅だ。内部にはベイマツ製材の斜材を現しで使っている。飾りで付けた部材ではなく、構造として水平方向の地震の揺れや風での揺れに対して抵抗する部材として働いている。このような材料が室内を取り囲んでいて、それが自然な形で外部の光を和らげたり、視線に対して柔らかくプライバシーを守る役割を果たしたりしている(関連記事:耐火木造の集合住宅を見に行く)。

下馬の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
下馬の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
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 こうして実例を見ると、設計上いろいろな工夫をして、中大規模の建物で木を使う、木を見せることが可能になっていることがわかる。ただ、そこには施工者の苦労もある。材料の調達、作業員の確保、どのような作業員をどのタイミングで現場に入れるか…。これまでのRC造やS造の建物の現場とはだいぶ変わってくる。

 こうした要因が総じてコストアップになる傾向もあり、設計者も、効果的に木をうまく見せることや、法規制のなかでどう木を使うかを考えながら取り組んでいるのが現状だ。

 木材・木質活用を進めていくことを目的に、さまざまな講習会が開かれたり、コンクールが行われたりしている。一方、発注者に対しては、補助金が出るケースや、地方の自治体から材料供給されたりすることもある。

木でつくる 木を見せる(資料:チーム・ティンバライズ)
木でつくる 木を見せる(資料:チーム・ティンバライズ)
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 私は「下馬の集合住宅」に取り組むまでは、木造建築の経験がなかった。ただ、最近は、木造・木質の面白いプロジェクトに取り組む機会をいただいている。

 木の建築の魅力を考えていくと、木と言っても、スギがありヒノキがあり、北海道に行けばトドマツなど地域性があり、木にもそれぞれキャラクターがある。こうしたことは、ユーザーにもどこかで響く部分があると思っている。

 樹種やその地域性など「木の個性」を手掛かりに、木と長く関わること、つまり関係性を築いていけるのではないか。そのようなモデルをうまくつくっていくことで、木造・木質建築の裾野を広げていけたらと思う。

木の個性を活かす(資料:チーム・ティンバライズ)
木の個性を活かす(資料:チーム・ティンバライズ)
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小原(日経BPインフラ総合研究所):内海さん、ありがとうございました。最後に近藤さん、お願いします。