できるだけ木を使いたいというニーズの再創出

住友林業 木化営業部 営業チーム係長 出口俊氏(写真:菊池一郎)
住友林業 木化営業部 営業チーム係長 出口俊氏(写真:菊池一郎)
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出口(住友林業):私からは「できるだけ木を使いたいというニーズの再創出」という切り口で発表する。実地研究において、近年さまざまな中大規模木造建築が実現され、効果的に木が使われていることを見て実感した。ただ、そこからさらに木材の活用を高めるために、このテーマを取りあげた。

 最初に「木悪説」と「木善説」という考え方を紹介する。これまで、事業者側がなるべく木を使わずに済ませたいという時代が長く続いたこともあり、木は、汚れる、反る、割れる、メンテナンスに手間がかかる…というような課題の方を先に挙げられる。

木悪説と木善説(資料:住友林業)
木悪説と木善説(資料:住友林業)
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 住友林業では、中大規模木造建築を推進する「木化事業」を新たに立ち上げた。緑を広げる「緑化」という言葉にならって、木造・木質化を広げることを総称して「木化(MOCCA)」という言葉を使って、あらためて木の良さや価値を共有することを目指している。住宅という枠を超えて、保育園のような教育施設や商業施設、老人ホームなどの福祉施設といった公共性の高い建築物に取り組んでいる。

 最近では、木造建築の小学校の完成を間近に控えている(下の資料の左の写真)。4000m2を超える建物で、いわゆる中大規模と言われる木造建築だ。右の写真の建物は、チーム・ティンバライズの監修で、スタジオ・クハラ・ヤギが設計、住友林業が施工を担当している。主構造はS造で、鉄骨内蔵型の耐火集成材を使った都心部の中高層建築に取り組んでいる。

中大規模木造、都心の木化への取り組み(資料:住友林業)
中大規模木造、都心の木化への取り組み(資料:住友林業)
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 下の資料の左上の写真は、兵庫県伊丹市のコーヒーショップの建物だ。これは木の現しの魅力が出ている建物で、グッドデザインを受賞した。カフェでは、客の回転率を上げないといけないという常識があるが、ここは木の雰囲気に引かれてか、客の滞在時間が長いという。ケーキやパンなどを頼む人が多く、客単価が高く、売り上げが上がっている。また常連の方が多いという評価もある。

 右下の写真は、東京・目白のカフェで、耐火建築物だ。都心部でもこのようなカフェを木の現しで建てている。

 この他、保育園をムク材の床を使って建築した。子どもがおもちゃなどを投げて傷つけてしまったムク床を見て先生が注意したところ、子どもがモノを投げなくなったという。また、先生方からは、足が疲れにくくなったという評価もあった。

 最近では、木が割れた、反れた、汚れやすいというようなクレームよりも、「木にしてよかった」という声の方がはるかに多くなったと実感している。

中大規模木造建築事業への取り組み(資料:住友林業)
中大規模木造建築事業への取り組み(資料:住友林業)
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 別の視点、木のデザインということについて紹介する。建築に木を用いる際に「面」として木を表現すると、意外と記憶に残らないという。例えばカフェの床が普通に板張りだったとしても、ほとんどそのことを記憶していないことが多い。一方で木を「線」として表現すると、木の流れを目で追いかけるということが分かり、視線の動きが記憶に結びつくことがわかってきた。同じ費用で木を使うのであれば、効果の高い「線」をデザインすることを意識するとよいだろう。

 同じように、「塊」の表現が心に残ることもわかってきた。木を使うのであれば、木の存在が伝わることが重要だ。木の表現をどのようにデザインするのか、今後の木化推進の重要なテーマだと感じている。

木のデザインを再発見(資料:住友林業)
木のデザインを再発見(資料:住友林業)
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 事業者側の論理で「できるだけ木を使わずに済ませたい」という時代が長く続いたため、木材をどこにどのように使えばいいかという情報が共有されていない。木の効果を知ってもらうことによって、使用者目線でも「できるだけ木を使いたい」というニーズを再創出して、人にも環境にも真の貢献ができるように活動していくべきだと思う。

 「木から『感じる』ことを再発見し、未来の日本を背負う子どもたちの心に植林しましょう」と最後に記した。木を使うことの効果がどんどんでてくると、エンドユーザー、お客様もお金をかけるようになるのではないか。今後はハードからソフトの方に転換して議論していきたい。

できるだけ木を使いたいというニーズの再創出へ(資料:住友林業)
できるだけ木を使いたいというニーズの再創出へ(資料:住友林業)
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心に植林しましょう(資料:住友林業)
心に植林しましょう(資料:住友林業)
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小原(日経BPインフラ総合研究所):ありがとうございました。次に内海さんお願いします。