木造の音の問題

KUS 代表取締役、チーム・ティンバライズ 理事 内海彩 氏(写真:菊池一郎)
KUS 代表取締役、チーム・ティンバライズ 理事 内海彩 氏(写真:菊池一郎)
[画像のクリックで拡大表示]

内海(KUS 代表、チーム・ティンバライズ 理事):私は「下馬の集合住宅」を担当したことで、「上下階の音の問題はどうか」とたびたび質問をいただくので、まずは実測データを踏まえて、木造の音の問題についてお話ししたい。

 木造集合住宅の床の衝撃の実測を行ったのは、3事例ある。まず、私が担当した「下馬の集合住宅」と「赤羽の集合住宅」だ。3つ目は、チーム・ティンバライズで一緒に活動をしているスタジオ・クハラ・ヤギが担当した福島県の「矢吹町中町第一災害公営住宅」だ。それぞれ建物の概要については以下に示す。

床衝撃音の実測を行った3つの木造集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
床衝撃音の実測を行った3つの木造集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 まず「下馬の集合住宅」については、当時、木造の5階建て集合住宅などはなく、いろいろな専門家に伺ったりして、仕様を決めた。

在来床組仕様と下馬の集合住宅仕様の比較(資料:チーム・ティンバライズ)
在来床組仕様と下馬の集合住宅仕様の比較(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 これを、在来軸組み構法と比較する。在来軸組みに関しては実験値を基にした。「下馬の集合住宅」に関しては工事中に2つのデータを取った。素面については赤の折れ線で示している。せっこうレベリング材で被覆をした時点でのデータと、二重床を施した上でのデータなどをそれぞれ取った。

 実測データから、重量衝撃音はLr-60程度。軽量に関してもLr-60程度ということが確認できた。CLTではないが、それに近いような240mm厚の非常に分厚い無垢(むく)材を使っており、その遮音効果が確認できた。また二重床による低減量がやや小さいのは、いろいろ納まりに関係して低減する影響も大きいと推測された。

床衝撃音の実測 下馬の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
床衝撃音の実測 下馬の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 次に「赤羽の集合住宅」について。こちらはミサワホームによる木質接着複合パネルを構造に採用していて、床にも根太がたくさん入ったパネル材だ。こちらは、重量、軽量ともにLr-55程度。二重床によってかなり大きい効果が得られた。

床衝撃音の実測 赤羽の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
床衝撃音の実測 赤羽の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 最後に「矢吹町中町第一災害公営住宅」。こちらは木造在来軸組だ。これに関しては下馬、赤羽の知見を生かしつつ、より木造に特化した二重床というのを考えられないかということで、淡路技建とミサワホームとの協力を得て、パーティクルボードを二層重ねた二重床を開発した。こちらを施工した結果、重量でLr-60、軽量ではLr-55ということで、かなり良い結果を得ることができた。

床衝撃音の実測 矢吹町中町第一災害公営住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
床衝撃音の実測 矢吹町中町第一災害公営住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 木造だと音の問題を非常に気にされる。これについては、床の剛性を高める構造設計と、あるいは二重床や天井の二次部材の取り付け方、二重床自体の効果がかなり大きく影響する。また、天井を直付けにするか、独立梁を設けて天井をつけるかなどで性能の違いも表れてくる。

 つまり、木造であってもRCの賃貸マンションレベルに近いぐらいまでの性能は出せると思う。

床衝撃音の実測 3事例のまとめ(資料:チーム・ティンバライズ)
床衝撃音の実測 3事例のまとめ(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]
床衝撃音の実測 3事例のまとめ(資料:チーム・ティンバライズ)
床衝撃音の実測 3事例のまとめ(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに、屋外での木材利用について報告する。左の写真が「下馬の集合住宅」の2013年の完成当時の状況で、右の写真が2016年、現在の状況だ。塗装に関してのメンテナンスを行っていないと、どんなことになっているのか見ていただく。

 外壁部分はスギの羽目板材を貼っており、こちらに関しては一度木をブラスト処理した上で塗装している。その結果、入る塗料が2倍近くになるので非常に持ちがよくなる。床に関しては、南洋材を用いたが、こちらはそろそろメンテナンスをしないと厳しい状況になっている。

 視察で訪れた住田町役場は、大きな庇で屋外の木部を保護したり、あるいは板金で木材の小口を保護するといったような配慮が施されている。こういった手間を加えていくことで、木造建築がきれいに長く使われていくのではないか。

屋外の木材利用について 下馬の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
屋外の木材利用について 下馬の集合住宅(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]
屋外の木材利用について 住田町役場(資料:チーム・ティンバライズ)
屋外の木材利用について 住田町役場(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 日本は無垢の白木の信仰が強いが、伝統的な建造物でもなんらか保護はされてきた。今日においても、ぬれて腐りにくい材を使ったり、加工によって腐りにくくした材を開発したり、いろいろでてきている。それにさらに塗装など表面の保護を施し、建物での形状の配慮や、ディテールの工夫などを行って、さらにメンテナンスをやっていくということで木質化を進めていけるのではないか。

屋外の木材利用について 伝統的建造物(資料:チーム・ティンバライズ)
屋外の木材利用について 伝統的建造物(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]
屋外の木材利用について(資料:チーム・ティンバライズ)
屋外の木材利用について(資料:チーム・ティンバライズ)
[画像のクリックで拡大表示]

小原(日経BPインフラ総合研究所):内海さん、ありがとうございました。実際、木材活用、木造建築などを取材していて、ここ数年、目覚ましい技術革新と法制度の整備が進んでいると感じる。数年どころか、数か月単位で進んでいると思われる。例えば今回のようなものを来年もう一度やるとすればその時にはまた目覚ましい技術革新と法制度の整備というのが進んでいるだろう。 最後に林野庁の原さんからお話を。

原(林野庁):本日は、さまざまな立場の方から中大規模木造に取り組まれていることをご紹介いただいた。改めていろいろなアプローチがあるということを感じる。木質耐火部材の開発や、耐火ではなく準耐火構造で設計する工夫、またトラスなどで大空間をつくる技術、こういったものがどんどん出てくれば、ますます木造の普及が進むだろう。ぜひ皆さまにも木造に取り組んでいただければと思う。

「木材活用フォーラム2016」セッション1の様子(写真:菊池一郎)
「木材活用フォーラム2016」セッション1の様子(写真:菊池一郎)
[画像のクリックで拡大表示]

<訂正>3ページの6段落目に記載した文章を「建築基準法の指定建築材料については、JASやJISに適合したもの、または大臣認定を受けた材料である」に訂正しました。(2016年11月30日20時)

<訂正>3ページの6段落目に記載した文章を「LVL、CLTなどの指定された材料のみではあるが、JASやJISの規格に合ったものを使うのが原則だ」に訂正しました。(2017年1月10日21時)