中大規模木造の接合部・耐震性

中大規模木造プレカット技術協会 監事 藤田譲 氏(写真:菊池一郎)
中大規模木造プレカット技術協会 監事 藤田譲 氏(写真:菊池一郎)
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藤田(中大規模木造プレカット技術協会):本日は、中大規模木造の接合部・耐震性について話をさせていただく。接合部・耐震性について話すと、本来は膨大な内容になってしまう。そこで、今日はこの研究会で見学した事例を中心にしながら、全体を見渡してみたい。

 私が所属する一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会は、中大規模木造建築の普及を目的として、2015年4月に設立した。代表理事は東京大学の稲山正弘教授だ。活動としては、中大規模木造を普及するためのさまざまな仕組みを整備している。

 まず紹介する下の写真の右側の建物は、JIS-A3301、木造校舎の構造設計標準に基づくトラスとして2015年3月に改正された告示に基づいて設計した第一号の建物だ。この構造設計は私が担当した。広島県の材木店の倉庫で、12mスパンのトラスを実現している。

 次に写真の左側は岩手県紫波町のオガールプラザの工事中の写真だ。この建物に使われているのは15倍の高倍率耐力壁だ。これもJIS-A3301に示されている高倍率耐力壁で、これを使うことで開放的なラーメンのような空間を実現している。

中大規模木造の接合部・耐震性(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
中大規模木造の接合部・耐震性(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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 接合部の技術については、まず半剛接合が挙げられる。地震力に対して柱の曲げで抵抗するような接合部だ。そうすると柱・梁ともに大断面集成材になる。

 下の資料の一番上が「Gビル自由が丘01 B館」だ。これは耐火木造の3階建てで、鋼板挿入接合という接合方法を採用している。大断面集成材にスリットを入れて、大きな鋼板を入れてドリフトピンをたくさん打っている。これにより、半剛接合としている。道路に面する間口側はラーメン、奥行き方向は耐力壁構造だ。大断面集成材を使うとコストが上がるので、間口方向をラーメン、奥行きを耐力壁にすることで、柱を300×600mmに抑えている。2方向ともにラーメンにすると600×600mmぐらいの柱になるだろう。

 2つ目は、岩手県のオガールプラザの隣にある、紫波町庁舎の建物だ。この建物も木造3階建てだ。こちらはグルードインロッド接合という接合方法で、大断面集成材を使っている。グルードインロッド接合とは、柱の仕口に鋼棒を入れて、鋼棒よりひと回り大きい穴に樹脂接着剤を注入して、接着剤の付着抵抗と鋼棒の引張により応力を伝達する接合方法だ。

接合部技術1:半剛接合 大断面集成材活用事例(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
接合部技術1:半剛接合 大断面集成材活用事例(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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 続いて、2つ目の接合方法として、ピン接合が挙げられる。地震力に対しては、高倍率の耐力壁等で抵抗する。柱に曲げの力がかからないので断面が小さくて済み、流通材を活用することが可能になる。

 下の資料の一番上がKUSの内海さんが設計された「下馬の集合住宅」。これは5階建てだが1階がRC造で2〜5階が木造。耐力壁としては、面材の高倍率耐力壁と、道路側は現しの筋かいが担っている。構造柱はメンブレン型の耐火構造としている。先ほどの半剛接合ものと比べると柱がかなり細いことが分かるだろう。

 二番目は、オガールプラザの図書館1階部分。最初に紹介したが、壁倍率は14倍相当の高倍率耐力壁を用いている。分棟化することで、準耐火構造、燃えしろ設計を行っており、柱がかなり細い。

 三番目は住田町役場、1階の事務室部分。これは2階建て、延べ床面積が2900m2の建物だ。面材高倍率耐力壁と壁倍率7倍程度の斜格子高倍率耐力壁で、スプリンクラーを設置し、燃えしろ設計で準耐火構造にしている。

接合部技術2:ピン接合 流通材活用事例(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
接合部技術2:ピン接合 流通材活用事例(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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 接合部技術の3つ目は、大スパン架講の技術だ。住田町役場には、レンズ型のトラスが使われており、22mスパンの屋根を架構している。

 次いでオガールプラザ、こちらは岩手県産のカラマツ材の中断面集成材を2丁合わせとした方杖付きの2ヒンジ山形ラーメン架構としている。これで28mスパンを実現している。

 その他の技術としてアーチやサスペンションなど、だんだんレベルが上がってくるが、写真に示されたアーチは稲山先生の設計による実例だ。

 この研究会で見学した中では、陸前高田市の高田東中学校がサスペンション構造を採用していた。その他の技術として、平行弦トラス、張弦トラス、ラフタートラスなどがある。

接合部技術3:大スパン架構の技術事例1(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
接合部技術3:大スパン架構の技術事例1(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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接合部技術3:大スパン架構の技術事例2(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
接合部技術3:大スパン架構の技術事例2(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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 次に、中大規模木造を実現するに当たっての課題について、当協会としての解決策について説明したい。

 第1の課題はコストだ。大断面集成材を使うと、コストが割高になってくる。そこで、当協会としては、コストの課題解消としては、一般流通材と住宅用プレカットを活用することで、低コストと工期短縮を実現することを薦めている。

 次いで、防耐火の法規制だ。耐火は被覆、準耐火は燃えしろ規定がかかってくる。これについては、なるべく耐火、準耐火を避けてその他木造で計画することを推奨している。

 木造の構造設計もできる構造技術者が少ないことも課題だ。そこで、構造計画と構造計算に関しては、なるべく許容応力度計算のルート2以下で計算できるように考えること。また、JIS-A3301に準拠して、耐力壁形式とすることで、高倍率耐力壁とトラスで開放的プランと、大スパンが実現できる。

 さらに、非住宅用の標準設計ツール、構造の標準図や積算テーブル、施工マニュアルなどがないという設計上の課題もあり、なかなか取り組みづらい状況がある。

 そこで、当協会で、木造軸組接合部の標準図と特記仕様書を作成して、ホームページで誰でも無料でダウンロードできるようにしている。2015年夏に公開してから、多くの人に活用してもらっているようだ。積算モデルも作成しているので、概算見積もりも早く行うことができるだろう。

中大規模木造普及に関する課題とその解決策(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
中大規模木造普及に関する課題とその解決策(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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 JIS-A3301の「木造校舎の構造設計標準」が2015年3月に改正されている。これはユニット形状とか荷重条件、材料・構法を現在の標準的なものに改めており、高耐力の耐力壁や柱脚金物を開発して標準化している。

 左の写真は15倍相当の高耐力壁だ。160kNの金物についても製品化されている。15倍相当の耐力壁は、構造合板への釘ピッチがかなり細かい。協会で釘ピッチのテープを製品化しており、合板にこれを貼って印に釘を打っていけばよい。

 それから最初に紹介した、流通材とプレカットを用いた屋根トラスについては、12mスパンまでのものを標準化している。試算では、20m程度までのトラスは開発済みだ。

改正JIS-A3301「木造校舎の構造設計標準」(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
改正JIS-A3301「木造校舎の構造設計標準」(資料:中大規模木造プレカット技術協会)
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小原(日経BPインフラ総合研究所):藤田さんに質問は。

小林(竹中工務店 木造・木質建築推進本部):全て木造で計画した場合、最大どれぐらいの階数までが可能なのか。検討されていれば、お示しいただきたい。

藤田(中大規模木造プレカット技術協会):高さ方向に関しては、いろんな技術がある。当協会が示すピン構造で、軸組工法、高倍率耐力壁でやっていく形式では、協会代表理事の稲山氏が、木造4階建ての設計を行っており、このくらいが限界かと考えている。これ以上高くするのであれば、CLTなどを使うことになるだろう。現状では、2×4で6階建ての実例もあり、高さを求める場合は、違う方向で考えた方が良いのではないか。

小原(日経BPインフラ総合研究所):ありがとうございました。次の発表を小林さんお願いします。