10月21日、東京・目黒区の目黒雅叙園で「木材活用フォーラム2015」が開催された。会場では、「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」の半年間の活動報告を兼ねて3つのセッションが行われ、多くの聴講者を集めた。セッションの最初のテーマは「地方創生を実現する木造・木質化の価値」。同研究会を主催した日経BPインフラ総合研究所所長の安達功の司会で研究会のメンバーらが報告と議論を行った。

(写真:小林 淳)
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  • 【登壇者】
    • アーク不動産 関西事業本部 住宅事業部部長 今井 邦夫 氏
    • 日本CLT協会 事業部長 中島 洋 氏
    • 日経BP社 日経不動産マーケット情報 編集長 三上 一大 氏
    • 林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室 課長補佐 服部 浩治 氏
  • 【モデレータ】
    • 日経BP社 日経BPインフラ総合研究所所長 安達 功 氏
日経BP社 日経BPインフラ総合研究所所長 安達 功 氏(写真:小林 淳)
日経BP社 日経BPインフラ総合研究所所長 安達 功 氏(写真:小林 淳)
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安達(日経BPインフラ総合研究所):セッション1のテーマは、「地方創生を実現する木造・木質化の価値」についてだ。セッションに入る前に少しだけ、このフォーラムの背景を説明する。

 本年6月より日経BP社主催で「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」を行ってきた。本日は、その研究会の成果を発表する場という位置付けにもなっている。

 元々この研究会は、中高層建築物でどうしたら木材を使えるかということをテーマに検討を重ねてきた。そのなかで地方、そしていま動いている地方創生というところにも、木造・木質化の可能性が色々とあるのではないかということで、このテーマを据えた。

 まずは、関西に拠点を置くデベロッパーのアーク不動産の今井さんに、お話しいただききたい。

アーク不動産 関西事業本部 住宅事業部部長 今井 邦夫 氏(写真:小林 淳)
アーク不動産 関西事業本部 住宅事業部部長 今井 邦夫 氏(写真:小林 淳)
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今井(アーク不動産):当社は関西に本社がある総合不動産会社であり、地域的には北は仙台から南は鹿児島まで、さまざまな不動産を保有している。

 そのうち、今回のセミナーの話題になりそうな 事業は2つある。1点目は商業ビル、事務所ビル、賃貸住宅、ホテルの所有・運用だ。オペレーションはそれぞれ専門のオペレーションの会社にお願いしている。2点目はマンション、一戸建て、宅地の分譲事業だ。

 この2つに加えて、新規事業として、エネルギー事業と日本版CCRC(継続的なケアが受けられる高齢者向け施設)への参入を検討している。エネルギー事業では、既にメガソーラー事業に着手している。日本版CCRCについては現在検討中で、事業として成り立つのであれば、来年以降に参入していきたいと考えている。

低層が多い福祉施設は木造を導入しやすい

安達:アーク不動産は、木造・木質化と地方創生を積極的に組み合わせて導入していきたいと考えていると伺った。

 業務系の建物よりも居住系、いわゆる福祉施設やホテルのような施設のほうが導入しやすいし、かなり事例はあるということを研究会の中でもご指摘いただいている。

今井:研究会では、最初は中高層建築における木造・木質化を検討していた。ただ、実際に木造を導入しやすいのは、3~4階くらいの建物だ。老人ホームなどの福祉施設はそのくらいの規模なので導入しやすいと考える。ホテルも都心のビジネスホテルなどは高層だが、地方のリゾートホテルなどでは3~4階の低層建物のニーズがある。福祉施設では、「ゆいま~る那須」、「シェア金沢」、「ゴジカラ村」など、木造による事例がある。

 福祉に携わる方のなかには知っている方もいるかもしれないが、「ゆいま~る那須」と「シェア金沢」は、国が進めている日本版CCRC構想有識者会議で成功事例として取り上げられている。

 このうち「シェア金沢」を実際に見学させてもらった。すべて国産材を使った木造の建物群で、木材の活用だけでなく施設の運用の仕方も成功事例と評価できるだろう。

安達:福祉施設と木造は、どのようなところで親和性が高いのだろうか。

今井:日本人が住んでいる住宅は日本全体でみると木造が多い。高齢者になってそうした住宅から施設に移るに当たっても、木造施設のほうが親しみを感じられるのではないか。そういう面で、福祉施設と木造というのは親和性が高いと考えられる。

安達:親しみやすさのほかに、健康への好影響もおそらくあるだろう。