日経BPインフラ総合研究所が主催する「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」は、これまで東京都内と岩手県内で中大規模木造建築の実地研究を行った。その際に訪れたオガールプラザと住田町役場の構造設計を担当した稲山正弘氏(東京大学教授、ホルツストラ主宰)に、10月3日、レクチャーを受けた。テーマは「一般流通材とプレカットを用いた中大規模木造建築の構造デザイン」。稲山氏の解説を報告する。

 2010年に「公共建築物等木材利用促進法(公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律)」が施行された。しかし、いまだに公共建築物の木造化率は10%程度という状況だ。この背景には、設計者にとって中大規模木造を実現するにはハードルが高いという現実がある。以下、それらを6つ挙げる。

研究会において「一般流通材とプレカットを用いた中大規模木造建築の構造デザイン」のレクチャーを行う稲山正弘氏(写真:菊池一郎)
研究会において「一般流通材とプレカットを用いた中大規模木造建築の構造デザイン」のレクチャーを行う稲山正弘氏(写真:菊池一郎)
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(1)普及しにくい理由は、まずコストの問題だ。大断面集成材でつくると、鉄骨(S)造や鉄筋コンクリート(RC)造に比べて割高になってしまう。一方、戸建て住宅については、S造やRC造でつくるよりも木造でつくった方が安い。なぜなら、いわゆる一般流通材をプレカットで加工し、地域の工務店がつくるからだ。コストが安く、工期も早く、一定の品質できちんとつくるインフラが整っている。こうした木造住宅用のインフラをうまく活用することで、中大規模木造もコストを下げられる。

(2)防耐火の法規制の問題が挙げられる。特に準耐火、耐火の規制がかかってくると、木造にとって不利になってくる。

(3)木造の構造設計ができる構造技術者が少ないことがある。なかでも地方では非常に大きな課題になっている。意匠設計者が木造でやりたいと思っても、なかなか構造設計者が引き受けてくれない。

(4)規模の割に設計に手間がかかる。例えばS造であれば、H形鋼の継ぎ手などは全て標準化していて、標準図をあらかじめ用意している。ところが木造では、いちいち接合部まで設計して、鋼板とドリフトピンの本数に至るまで詳細図を描かなければならない。

(5)プロジェクトが進むにつれ、「木造ならば国産材でやりたい」という話になる。ただ、品質管理された国産製材は限られる。特に地域産のJAS材は調達がいまだに難しいという問題がある。

(6)非住宅用の標準設計ツールが整備されていないことがある。要するに、設計から工事監理までを含めて、設計者にとって中大規模木造は取り組みづらいという問題がある。

(資料:稲山正弘)
(資料:稲山正弘)
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