日経BPインフラ総合研究所が主催する「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」は岩手県内で実地研究を行った。北海道に次ぐ面積を持つ岩手県は、国内でも有数の林業県でもある。2016年9月27日、同年10月末の完成に向けて建設工事が進む高田東中学校を訪れた。地場産の気仙スギで大屋根を架けている。

 高田東中学校は、震災復興に伴って建設する新しい中学校だ。津波浸水域を南側に望む高台に計画している。陸前高田市は、東日本大震災で被災した3つの中学校を統合した新校、高田東中学校の設計者を選ぶ公募型プロポーザルを2012年に実施。同年12月の2次審査において、SALHAUS(サルハウス、東京都渋谷区)を最優秀賞者に選んだ。

 サルハウスが提案した建築計画は、地産材である気仙スギの流通材を用いて木の大屋根をつくり、鉄筋コンクリート(RC)造一部鉄骨(S)造の校舎全体に架け渡すというものだ。

 校舎の大屋根を形づくる木梁は、180mm×60mm、長さ約4mの気仙スギの真っすぐな製材を2枚重ね合わせて、ドリフトピンで継いで長さを確保する。鉄骨の棟梁と桁梁の間に、この木梁を吊り下げると、木の自重で垂れ下がり曲面となって見える。これにより、特別教室のある2階の棟では、約24mスパンの無柱空間を実現している。

気仙スギの製材を2枚重ね合わせて架構した大屋根。高さは約10.5m。木の自重で垂れ下がり曲面となって見える。降雪時の荷重を考慮し、木梁の途中で荷重方向に引っ張り、張力を入れている。降雪時にはその荷重が張力で相殺され屋根の形が変わらない写真:井上健)
気仙スギの製材を2枚重ね合わせて架構した大屋根。高さは約10.5m。木の自重で垂れ下がり曲面となって見える。降雪時の荷重を考慮し、木梁の途中で荷重方向に引っ張り、張力を入れている。降雪時にはその荷重が張力で相殺され屋根の形が変わらない写真:井上健)
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大屋根の木梁の端部は基礎部から引っ張っている(写真:井上健)
大屋根の木梁の端部は基礎部から引っ張っている(写真:井上健)
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 計画地はもともと斜面地で、ひな壇上の造成がなされていた。北側の道路側からは、校舎の2階が最初に目に入ることになる。サルハウス共同代表の日野雅司氏は、「アクセスしやすい2階にはホール、特別教室、図書室などを、1階には普通教室を配置した。さらに校舎を出て1段下がってグラウンドというプラン構成とした」と説明する。

 「市内の公共施設の復興が遅れており、一般の市民に公民館的に利用できるように配慮した。例えば、市民が家庭科室や音楽室を単独で貸してほしいという際にも、アクセスの良い2階の特別教室だけを開放できる」とサルハウス共同代表の栃澤麻利氏は言う。

 「復興のシンボルという意味でも、地場産材を象徴的に使うことにはこだわりがあった」と日野氏。構造については、RC造の基礎・壁に対して、屋根は主に木造とする混構造を採用した。これはサルハウスが群馬県農業技術センターで採用した工法を改良したものだという。

高田東中学校の建設現場を北側から見る。計画地に面する岩手県道38号が主要アクセスとなる。傾斜する木造の大屋根の向こうに広田湾が見える(写真:井上健)
高田東中学校の建設現場を北側から見る。計画地に面する岩手県道38号が主要アクセスとなる。傾斜する木造の大屋根の向こうに広田湾が見える(写真:井上健)
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グラウンド側から校舎建物を見る。グラウンドから普通教室がある1階、その上に特別教室などのある2階とひな壇状の敷地だ。中央奥には体育館、右手に武道場が見える(写真:井上健)
グラウンド側から校舎建物を見る。グラウンドから普通教室がある1階、その上に特別教室などのある2階とひな壇状の敷地だ。中央奥には体育館、右手に武道場が見える(写真:井上健)
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メーンアクセスとなる県道側の2階ホール部分。構造は、RC造一部S造に木造の屋根が載る混構造(写真:井上健)
メーンアクセスとなる県道側の2階ホール部分。構造は、RC造一部S造に木造の屋根が載る混構造(写真:井上健)
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1階の普通教室。高さ2.8m〜4.8mで気仙スギの木梁が見える緩やかな勾配天井。右側の2階と接続する部分に高窓を設け、廊下が横切る計画になっている(写真:井上健)
1階の普通教室。高さ2.8m〜4.8mで気仙スギの木梁が見える緩やかな勾配天井。右側の2階と接続する部分に高窓を設け、廊下が横切る計画になっている(写真:井上健)
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