促進劣化法の結果を実態調査と照合する

 接着耐久性の評価方法は2つある。

 ひとつは促進劣化法だ。負荷をかけてその繰り返しによってどのように劣化するかを調べ、そこから耐用年数を導き出す。

 二つ目は実態調査だ。実際使われてきたものを実際どうなのか調べて、それをもって、問題があるかどうかを考える。

 一つ目の促進劣化法にもいろいろあって、よく行われるのが、屋外暴露試験だ。

エゾマツ集成材の屋外暴露試験結果
(資料:「集成材建築物設計の手引」68ページの図を基に編集部が作成)
(資料:「集成材建築物設計の手引」68ページの図を基に編集部が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 これは研究所の先輩である森屋和美氏らが行った実験なのだが、柱角くらいの集成材を屋外に10年くらい置いて接着耐久性を調べたものだ。旭川市と八王子と高知市で、先ほど解説したユリア樹脂およびレゾルシノール系樹脂で貼ったエゾマツ集成材を暴露して、どんなふうに接着強さが低下していくのかを調べた。八王子や高知では強度がゼロになったデータが示されているが、これは接着耐久性というよりも木材が腐ってしまった結果である。そうではないところに関しては、10年たって6割くらいの強度が残っていたことがわかっている。レゾルシノール系樹脂はユリア樹脂より耐久性が高いこと、木材保存処理の効果が大きいこともわかった。

 次に行うのが促進劣化試験だ。例えば煮沸試験を繰り返し、何回やるとどれだけ強度が落ちるかを求める。そこから促進劣化処理1回分が屋外暴露の何年分に当たるかがわかるので、これによって寿命を求めようとする方法だ。(井上明生「接着耐久性の新しい予測法(第1報)促進劣化処理した合板の屋外暴露試験」木材学会誌Vol.38、No.10 p923-930 1992による)

 この促進劣化法による結果についても、最終的に何年もったかを実態調査で確認、実証しなければならない。そのため10年くらい前に、日本集成材工業協同組合内に設置した「集成材建物耐久性調査委員会」で国内外の建築物に使われている集成材の実態調査を行った。国内では50~60年たった建物について、米国では70~80年たった建物について、実際どうなっているかを調査した。

 日本国内には、ユリア樹脂接着剤を使った構造用集成材で建てた体育館などは数多くある。三井木材という会社が1950年代に盛んに建てていた時期があったからだ。調査の時期には50年くらい経過していたが、まだ供用されていた。

 米国では1930年代にカゼイン接着剤を使った集成材が残っていた。1934年に建てられた図書館で、いまでも使っている。

米国でも最古級の集成材建物(現高校図書館)
[画像のクリックで拡大表示]
接着層付近の深い割れ
[画像のクリックで拡大表示]
米国でも最古級の集成材建物(現高校図書館)と接着層付近の深い割れ(右)(写真:宮武 敦)

 シカゴの北側、ウィスコンシン州辺りにはこのような建物が多く残っていた。集成材の工場の方にも聞き取りしたが、一部に剥離などもあるが、いまなお十分に使っているという状況だった。

 木材の長期的な耐久性についての結論として、二つ考えられる。

 まず、集成材黎明期に使用された、現行のJAS規格には全く適合できないくらい耐久性の低いカゼインやユリア樹脂などでも、50年、70年を経て、現在も使用されている建物が数多くあるということ。

 二つ目は、現在のJAS規格で認められている接着剤を使い、基準を守って作った集成材であれば、一般的な使用環境なら50~70年は当然で、それ以上もつだろうということ。個人的には、耐久性の高い接着剤を使っていれば100年以上もつのではないかと考えている。

宮武 敦(みやたけ あつし)
国立研究開発法人 森林総合研究所 複合材料研究領域 チーム長
宮武 敦(みやたけ あつし) 1986年東京農工大学大学院修士課程修了。同年林業試験場(現在の森林総合研究所の前身)に入所。集成材等の製造と性能評価に関する研究に取り組む。2004年より現職。

<訂正>1p目本文第1段落中、編集部で付けた旧国立林業試験場の注釈に間違いがありましたので訂正します。初出では「林野庁の外郭団体」と表記していましたが、正しくは「林野庁所属の機関」であり、外郭団体ではありません。(2015年10月21日午後4時30分)