港区が推進する木材利用の率先モデル

 日本随一の繁華街で木質材を活用したビルの最新事例を見学した後、木材利用のモデル的な建物を標榜している港区の「みなとパーク芝浦」を最後に訪れた。

 芝浦港南地区総合支所、消費者センター、男女平等参画センター、港区スポーツセンターなどから成る複合公共施設だが、「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」によって、区内で建てられる大規模建築への国産材利用を推進している港区ならではの、公共施設における木材利用の事例を示す展示・実験場的な役割も担っている。JR田町駅東口から徒歩圏内にあり、2014年12月に開設された。

 地上8階建て、延べ床面積約5万m2の巨大な建物が眼前に迫る。浜松町側からアプローチすると、まず目を引くのは、東側壁面のほぼ全面を覆うスギ無垢材のルーバーだ。木を大量に使って環境に貢献していく意志が強く感じられ、建物を初めて目にした委員からは感嘆の声が漏れた。

みなとパーク芝浦。北東側からの外観(写真:村島 正彦)
みなとパーク芝浦。北東側からの外観(写真:村島 正彦)
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東側壁面はスギ無垢材の横ルーバーだ(写真:村島 正彦)
東側壁面はスギ無垢材の横ルーバーだ(写真:村島 正彦)
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 この日は、港区環境リサイクル支援部環境課の目時有也氏ら3人の職員が案内をしてくれた。まず通されたのは、建物の目抜き通りともいうべき1~2階が吹き抜けになったアトリウムだ。トップライトから自然光が降り注ぐ開放的な空間で、来館者を迎え入れる。この建物で使用されている日本全国の木材のサンプルが展示されるとともに、案内ブースなどの什器や、見上げる2階腰壁などに木が多用されている。

アトリウムの空調は自然換気による。中央の銀色の円筒は換気塔(写真:村島 正彦)
アトリウムの空調は自然換気による。中央の銀色の円筒は換気塔(写真:村島 正彦)
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 目時氏は、「このアトリウムには外気の取り入れや気流発生装置、ドライミスト、高断熱ガラスなどを採用することで、中間期は空調に頼ることなく快適な空気環境を実現している」と話す。木材利用によるCO2固定化に留まらず、パッシブな環境共生建築としての試みを様々に行っている。また「木材利用については、みなとモデルの基準値である床面積1m2につき0.001m3を超え、アップグレード値である床面積1m2当たり0.005m3を実現し、二つ星の認証書を取得した」と説明する。ちなみに三つ星の認証を取得するには床面積1m2につき0.010m3超が必要になる。

 建物全体の延べ床面積は5万700m2あるが、そこに477m3の木材が使われているのだという。

みなとモデルの認証書。この建物はみなとモデルの基準値を5倍以上上回り、二つ星を取得した(写真:村島 正彦)
みなとモデルの認証書。この建物はみなとモデルの基準値を5倍以上上回り、二つ星を取得(写真:村島 正彦)
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芝浦港南地区総合支所のエリアでは、受付の什器などにも木を使っている(写真:村島 正彦)
芝浦港南地区総合支所のエリアでは、受付の什器などにも木を使っている(写真:村島 正彦)
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 次に案内してもらったのは、地下1階の受水施設だ。受水槽はFRP製が標準だが、この建物では「施工したゼネコンの提案もあり、スギ材でつくった受水槽も設置している」という。クギは一切使っていない。衛生面の問題もなく、水に匂いが移ることもないという。

地下受水槽にはFRP製のもの以外にスギ材の大樽を導入した(写真:村島 正彦)
地下受水槽にはFRP製のもの以外にスギ材の大樽を導入した(写真:村島 正彦)
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 建物の3~8階は港区スポーツセンターが入り、約2万m2を占める。アリーナ、サブアリーナ、3つの武道場、トレーニングパークなどで構成され、同区内で最大の総合スポーツ施設だという。アリーナ、武道場などは床、壁、什器などを極力木質化し、プールの内装には防腐処理した木を使っている。

 1階の区民ギャラリーは、視界に入る壁面などのほとんどが「木」だ。この区民ギャラリーだけで16m3の木を使っているという。

5~7階のアリーナ。床・壁・座席などを木質化している(写真:村島 正彦)
5~7階のアリーナ。床・壁・座席などを木質化している(写真:村島 正彦)
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4階の武道場。床と壁、災害用の備蓄を兼ねる倉庫や什器も木質化している(写真:村島 正彦)
4階の武道場。床と壁、災害用の備蓄を兼ねる倉庫や什器も木質化している(写真:村島 正彦)
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プールでは防腐処理した木を使用(写真:編集部)
プールでは防腐処理した木を使用(写真:編集部)
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木をふんだんに使った区民ギャラリー。通路に見えるが、一室空間としているので内装制限を受けない(写真:村島 正彦)
木をふんだんに使った区民ギャラリー。通路に見えるが、一室空間としているので内装制限を受けない(写真:村島 正彦)
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 屋外では、東面などに設けられた外装ルーバーで約230m3の木材が使われており、この施設で使用した木材の量ではいちばん大きな割合を占めるという。腐朽が心配される部分では木粉を樹脂に混ぜた再生木材が使われ、メンテナンス・取り替え用の足場なども計画時から配慮されている。外部空間では、この他に、ペデストリアンデッキの床や天井材などにもスギ材が張られている。

一部のルーバーは再生木材(5%木材混合)とし、メンテナンスに配慮した。みなとモデルのルール上では、混合した木材の部分だけしか木材使用量としてはカウントしていない(写真:村島 正彦)
一部のルーバーは再生木材(5%木材混合)とし、メンテナンスに配慮した。みなとモデルのルール上では、混合した木材の部分だけしか木材使用量としてはカウントしていない(写真:村島 正彦)
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木のルーバー。天井ではないので不燃処理は施していない(写真:村島 正彦)
木のルーバー。天井ではないので不燃処理は施していない(写真:村島 正彦)
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公園側のペデストリアンデッキは防腐剤を加圧注入した無垢のスギ材が張られている(写真:村島 正彦)
公園側のペデストリアンデッキは防腐剤を加圧注入した無垢のスギ材が張られている(写真:村島 正彦)
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 施設の見学を終え、委員からは「公共施設というパイロット事業だからチャレンジできた部分も大きそうだ」という声や「視覚的にも、木材の使用量の目安が体感できた」という声が聞かれた。

 みなと森と水ネットワーク会議事務局の技術専門官である白鳥芳洋氏からは、「当施設に木を使うに当たっては、特に目に見えるところに使うことを重視した」という説明があった。また「21の自治体産の木材を利用している。外装には油分の多い南の地方のスギを使った」そうで、木の耐久性や腐朽の度合いについては実際に使っていくなかで検証しているという。

 このほか「さまざまな事業者、メーカーが木質材料の開発を行っている。みなとモデルにチャレンジする事業者の方は、区に積極的に相談してもらいたい」と語った。

見学後の港区担当者との質疑応答(写真:村島 正彦)
見学後の港区担当者との質疑応答(写真:村島 正彦)
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概要

  • みなとパーク芝浦
  • 港区芝浦1-16-1
  • http://www.city.minato.tokyo.jp/shiba-koushisetsu/minatoparkshibaura.html
  • 説明・案内
    • 港区環境リサイクル支援部環境課 目時有也氏
    • 港区芝浦江南地区総合支所管理課 竹田賢仁氏
    • みなと森と水ネットワーク会議事務局 白鳥芳洋氏
  • 建物概要
    • 建物名称:みなとパーク芝浦
    • 所在地:港区芝浦一丁目16番1号
    • 規模:地上8階、地下1階、高さ54.9m、延べ床面積5万724.9m2
    • 構造:S造(一部SRC造、RC造)、免震構造
    • 整備施設:芝浦港南地区総合支所、港区立消費者センター、港区立介護予防総合センター「ラクっちゃ」、港区立男女平等参画センター「リーブラ」、港区スポーツセンターほか

<訂正>4ページ目の本文中で「資料」の出所を明示していませんでしたので、本文4行目、同10行目およびビルの概要を以下のように訂正しました。

  • (4行目)
    • 誤:あらかじめ資料で建物外観の写真があったので、間口4mの狭小間口のビルを見つけることができた。
    • 正:あらかじめ検索した資料(木造建築技術先導事業評価・実施支援室のHP)に建物外観の写真があったので、間口4mの狭小間口のビルを見つけることができた。
  • (10行目)
    • 誤:このビルの敷地にはもともと7階建ての鉄筋コンクリート造のビルが建っていたという。
    • 正:資料によれば、このビルの敷地にはもともと7階建てのRC造のビルが建っていたという。
  • (概要)
    • 誤:概要
    • 正:概要(木造建築技術先導事業評価・実施支援室のHP上の資料による)

また、最終段落中の以下の本文を、木造建築技術先導事業評価・実施支援室の要請により、以下のように訂正しました。

  • 誤:ツーバイフォーを採用したことで、柱型のない成型のフロアを狭小地でも確保でき、独自開発のタイダウンシステム、中層建築のための建て起こし工法の改良、パネル工法併用による施工性の向上などでRC造や鉄骨造に比べて建築コストを軽減できたという。
  • 正:ツーバイフォーを採用したことで、柱型のない成型のフロアを狭小地でも確保でき、独自開発のタイダウンシステム、中層建築のための建て起こし工法の改良、パネル工法併用による施工性の向上などで、RC造や鉄骨造に比べて建築コストを軽減することも可能だという。

<訂正>5ページ目のNOCOビルの記事中、敷地およびビル内部の写真2点は無許可撮影だったためこれらを削除し、概要の未確認部分を訂正・削除しました。

  • (概要)
    • 誤:NOCOビル(銀座の木の積層体)
    • 中央区銀座5-6-5
    • 設計施工 竹中工務店
    • 延べ床面積 鉄骨造/地上8階
    • 竣工年 2014年
    • 正:NOCOビル
    • 中央区銀座5-6-5
    • 設計施工 竹中工務店

(2015年11月2日午後6時30分)


<訂正>6ページ目2段落目で初出時、“「みなとモデル 二酸化炭素固定認証制度」を条例化して”と記載していましたが、条例化はしていませんでしたので、以下のように訂正しました。

  • 誤:「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」を条例化して区内で建てられる大規模建築に国産材利用を義務付けた港区ならではの
  • 正:「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」によって、区内で建てられる大規模建築への国産材利用を推進している港区ならではの

また、同段落中、みなとパーク芝浦の立地について“JR田町駅東口北地区の再開発事業区域内にあり”と記載していましたが、同施設は再開発事業区域外なので、以下のように訂正しました。

  • 誤:JR田町駅東口北地区の再開発事業区域内にあり
  • 正:JR田町駅東口から徒歩圏内にあり

(2015年10月21日午後3時00分)