住宅分野での木材利用は飽和状態にある日本。建築物での木材利用をさらに高めるには、非住宅分野の建築物で大量に木材や木質材料を使用する可能性を探らなければならない。では、鋼構造が主流の超高層オフィスビルで木材の活用範囲を広げるとしたら、どのような部位が有力なのか。構造材の中でも最も使用量の大きい床に着目し、CLT床とすることを提案・研究している福岡大学の稲田達夫・工学部建築学科教授が、その可能性と課題について報告してもらった。

福岡大学 工学部建築学科教授 稲田 達夫氏
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福岡大学 工学部建築学科教授 稲田 達夫氏

 私は、もともと三菱地所設計に在籍し、構造設計、なかでも鋼構造、鉄骨造を専門にしてきた。2000年頃、日本建築学会・地球環境本委員会に委員として参加し、09年から委員長を務めた。「地球環境を考えるうえでは、木造についてもきちんと考えなければならない」とのアドバイスもあり、「地球環境時代における木材活用WG」を立ち上げた。2010年から福岡大学に務め、木質構造の講義を始めたこともあり、最近では、木質構造の専門家と思われているようだ。

 私がお話しするのは、鋼構造のオフィスビルの床を木質化する提案だ。

 大学に転じてからは、木質構造と地球環境問題をテーマに研究している。最初は柱・梁の表面を木で構成する案を検討したが、試算の結果、CO2排出量の削減にはほとんど結びつかなかった。床がコンクリートのままだったのが原因だ。そこで、床を木に変えてみたら、今度はCO2排出量が顕著に下がった。そこで、構造は鋼構造のままでも、床を木質化すれば環境負荷は大きく減らせるのではないかと考えた。

 地球環境委員会のWGで主張していたのは、建築分野における木材活用の促進。新築着工の木造率を現状の35%程度から70%にしようという提案だ。そして、木材自給率を40%くらいに高めようと言ってきた。わが国には人工林の蓄積量が現在約30億m3あり、この活用を図ろうというわけだ。1960年当時、国産木材の生産量は約4000万m3だったが、現在では約2000万m3に半減している。わが国では、住宅については木造の割合が高く、この分野で木材利用率をこれ以上高めていくことは無理がある。したがって非住宅で木材利用を進めることが重要になる。