木造住宅には慣れていても、中大規模木造となると二の足を踏んでしまう設計事務所や工務店などは少なくない。中大規模木造をさらに普及させるためにはどうすればいいか。東京大学大学院教授の稲山正弘氏に聞いた。

身近な住宅用の木材でも
中大規模木造はつくれる

東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木質材料学研究室 教授 稲山正弘氏(撮影:石原 秀樹)
東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木質材料学研究室 教授 稲山正弘氏(撮影:石原 秀樹)
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 2010年10月に公共建築物等木材利用促進法(公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律)が施行されて7年がたちました。以来、木造を巡る動きは活発化していますが、期待される中大規模木造の普及は、まだ十分ではありません。その要因として指摘されるのが、「コスト」、「防耐火」、「構造計算」、「納まり」の4つです。

 実は、これらの課題を乗り越えることは現状でも可能です。地域の工務店などが中大規模木造をつくることができます。4つの課題をクリアする方法を順に見ていきましょう。

 まず、コストです。中大規模木造は、鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨(S)造よりもコスト高だと言われます。しかし、戸建て住宅の場合、最も安い構造は木造です。一般流通材をプレカットして使う在来木造のシステムが確立しているからです。中高層は困難ですが、3階以下の低層建物ならば、住宅用の一般流通材を使って中大規模木造を安価につくることができます。

 2つめの課題は、木造にとっては厳しい防耐火の規定です。しかし、低層の建物ならば、床面積1000m2以下ごとに分棟化、または防火区画を設ければ、準耐火構造や耐火構造にする必要はありません。実際、大規模建築よりも1000m2以下の建物のほうが、市場の規模も大きいので、その辺りをターゲットに木造化していくとよいでしょう。

 3つめは、構造計算です。中大規模木造の構造計算のできる設計事務所は限られます。しかし、耐力壁を用いる壁量計算ベースの在来木造で設計すれば、日本住宅・木材技術センターが発行している「木造軸組工法住宅の許容応力度計算」(通称、グレー本)という手引き書に基づく一般的な構造計算ソフトで設計でき、構造計算書をつくる手間を省けます。

納まりの標準図面を無料で公開
地域材に縛らない柔軟な発想も

 そして4つめの課題が、納まりです。中大規模木造は納まりが標準化されていないため、非常に手間がかかったケースが少なくありません。これについては、私が代表理事を務める中大規模木造プレカット技術協会のウエブサイトで、標準図が公開されています。誰でも無料でダウンロードでき、その図面を確認申請に使うこともできます。

 中大規模木造の建物には、スパンの大きな空間があります。例えば、保育園の遊戯室のスパンは12m程度です。

 住宅用の一般流通材は、長さが限られます。でも、そうした大空間をつくることは可能です。2015年に改正された日本工業規格「JIS A 3301」(木造校舎の構造設計標準)のなかで、一般流通材のプレカット材を用いる標準トラスの納まりが示されています。同じJISには、壁倍率15倍相当の耐力壁をつくる標準仕様も記載されています。

 ここまでに紹介した工法や仕様を組み合わせて使えば、地域の工務店などが、住宅と同じようにつくることができる。そのことを知ってもらい、ぜひ取り組んでほしいと思います。

 最近、地域材の利用を期待する声が強くなっています。しかし、多くの木材の供給が必要な中大規模木造で、構造材を地域材に限定すると、部材のコスト高を招く恐れがあります。むしろ、構造材は「国産材」というくらい広い範囲でとらえ、仕上げ材を地域材にするなど、柔軟な考え方があってもいいのではないでしょうか。