音響が呼び覚ます地域の記憶

音響は伝統を意識しながら計画されたが、建築自体は現代的なシンプルな設計。アラップは、敷地選定、施工費計画、ホールのコンセプト立案、ビジネスケースの作成、建築家選定サポートなども行った(写真:©NFM_Lukasz Rajchert)
音響は伝統を意識しながら計画されたが、建築自体は現代的なシンプルな設計。アラップは、敷地選定、施工費計画、ホールのコンセプト立案、ビジネスケースの作成、建築家選定サポートなども行った(写真:©NFM_Lukasz Rajchert)
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 さて、冒頭の欧州文化首都だが、選定されるためには、欧州全体の文化の特徴を備えた文化プログラムを計画することが条件だ。そのイベントにはその都市の市民の参加が不可欠である。またプログラム自身もその都市の長期的な文化、経済、社会発展に継続的な効果のあるものでなくてはならないとされている。

 ヨーロッパ最大の民族であるスラブをはじめ、モンゴル、ボヘミアなどの影響を受け、ハプスブルク帝国やドイツの一部だった時期もあるヴロツワフである。様々な音楽に対応しつつも〝音響“という目には見えなくとも人の潜在的記憶に訴える面で伝統を重視したこのホールは、文化首都の任期を過ぎても、文化、社会発展に貢献するものであるだろう。

アラップの発表資料(英語)

プロジェクト概要

  • クライアント: City of Wroclaw
  • 意匠設計:APAKA/ Kurylowicz & Associates
  • 劇場計画:Arup
  • コスト計画:Davis Langdon
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引士、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。