「静けさ」の品質を追求

 NFMは1800席を擁する大ホールと、より小さい3つのホールから成る。

 限られた予算の中で、所属する楽団や、常にホストしているフェスティバルの音響や運営に対して妥協することなく、また音質でも世界的に評価されたいという希望もあった。音に対する“親近感”をどのように達成するかを検討するなかで、まずは「N-1」レベルの静けさから始めようということになった。

 N‐1レベルがどういうものかと言うと、これは、騒音レベルを示す図として示されるNC曲線の、NC-15よりも低い値で、ほぼ最小可聴値である。N-15がレコーディングスタジオやホールに要求されるNC値、多目的ホールや劇場ではNC‐20~30と設定されることが多い。ちなみにオフィスは、最大許容値NC-40程度とされている。

建築の教科書でも見られるNC曲線を改良したものが、PNC曲線。NFMの室内騒音レベルは、ほぼ最小可聴値程度だ(資料:©Arup)
建築の教科書でも見られるNC曲線を改良したものが、PNC曲線。NFMの室内騒音レベルは、ほぼ最小可聴値程度だ(資料:©Arup)
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 騒音でN‐1レベルを達成するためには、建築設備関連の音を減じる必要がある。床吹きの空調なので、吹き出し部にあたる座席の台座の設計は風切り音など特に注意を要した。

 ホールは、振動に起因する音を防ぐため、すべて建築の構造体から縁を切って、天然ゴムの支承の上に設置している。

 空気を伝わって運ばれる騒音については、ホールと騒音源をコンクリートで覆い、その間に空気層を設けて隔離している。

断面図と部分写真。図中の丸数字の解説は(1)ステージ縮小ピット (2)ステージ拡大ピット (3)コーラスワゴンとリフト (4)音響用キャノピー(反響板)(5)音響調整室のドア (6)オーケストラ用プラットホーム (7)技術室 (8)建築本体と縁を切っている部分 (9)床下給気 (10)演出照明 (11)コントロール・ブース (12)スポットライト用ブース(資料:©Arup/ Martin Hall)
断面図と部分写真。図中の丸数字の解説は(1)ステージ縮小ピット (2)ステージ拡大ピット (3)コーラスワゴンとリフト (4)音響用キャノピー(反響板)(5)音響調整室のドア (6)オーケストラ用プラットホーム (7)技術室 (8)建築本体と縁を切っている部分 (9)床下給気 (10)演出照明 (11)コントロール・ブース (12)スポットライト用ブース(資料:©Arup/ Martin Hall)
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