フェンスを置くだけではない

 五輪会場は、各種競技の行われる競技会場と、選手村やトレーニング施設、報道関係の施設などを含む非競技会場の2つに大別できる。オーバーレイは全ての会場で必要とされるが、非競技会場は個別性が強く、かつ一般の観客の目に触れることは少ないため、今回は競技会場に絞って話を進めたい。

 競技会場に関しては、さらに3つのケースに分類できる。既存施設を利用した会場、五輪に向けて新築される会場、そして更地に大規模な仮設物を配置することで構築される会場だ。それぞれに検討プロセスや有する課題が異なることから、ロンドン五輪の事例をもとに一つひとつその特性を明らかにしていきたい。

ケース1: 既存施設を利用した会場

 ロンドン東部に位置するExCel Londonでは、レスリング、柔道、ボクシングなど7種の競技が開催された。こちらの会場は、もともと欧州でも有数の規模を誇るコンベンションセンターであり、英国モーターショーの会場としても利用されている。

 既存施設を競技会場として利用する場合、五輪の実施主体である大会組織委員会と綿密に連携し、施設および運営計画を早い段階で理解することが非常に重要となる。具体的には、既存施設の空間構成や保有設備と競技の開催要件を照らし合わせ、オーバーレイによりつくり出すことが必要な空間や機能を十分に理解することから計画は始まる。

 競技の運営計画が完全に確定する前に検証作業を行うことは、関係者の理解を促進するだけでなく効率的な調達計画につなげるという利点も生み出すことができる。また運営計画が複雑な場合や会場が複数にわたる場合には、モデル会場を選定して運営計画の実現可能性を検証することにより、課題を洗い出すこともある。

オーバーレイ工事中のExCel London(資料:Arup)
オーバーレイ工事中のExCel London(資料:Arup)
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ExCel Londonで開催されたウェイトリフティング競技の模様(資料:Arup)
ExCel Londonで開催されたウェイトリフティング競技の模様(資料:Arup)
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