BIMをいかに評価するか

 英国政府のくさび形モデル以外にも、プロジェクト単位でより詳細にBIM成熟度を評価するツールは、オンラインに様々な形で提供されている。アラップは、米ペンシルベニア州立大学の研究をもとに「BIM Maturity Measure」というBIM成熟度評価ツールを開発し、全事務所におけるBIM導入の足並みを揃える指標として利用している。

Arup BIM Maturity Measure 。専門分野別に各項目に対する5段階評価を行う形式で、BIMの成熟度を測定できるツール。図面の整合性やシミュレーションの完成度によってではなく、いかにモデルや共有スタンダードを介して「設計プロセス」を円滑にコントロールしたかを重視する評価法である(資料:Arup)
Arup BIM Maturity Measure 。専門分野別に各項目に対する5段階評価を行う形式で、BIMの成熟度を測定できるツール。図面の整合性やシミュレーションの完成度によってではなく、いかにモデルや共有スタンダードを介して「設計プロセス」を円滑にコントロールしたかを重視する評価法である(資料:Arup)
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 専門分野別に、BIMに対する発注者の要求、BIM実行計画(BEP) の有無、チーム内情報共有の方法、契約事項、BIMコーディネーターの業務範囲など、各項目に対する5段階評価によって、プロジェクトのBIM成熟度を測定する形式だ。フリーツールとしてダウンロードできるので、BIMを「設計のプロセス」として活用するための指針として、ぜひ参考にしていただきたい。
「BIM Maturity Measure」のダウンロードリンク

 筆者は、05年に出版されたトーマス・フリードマンの著書「フラット化する世界」になぞらえて、BIM普及について考えることがある。

 当時、トーマス・フリードマンは、インターネットの普及を、共同作業のためのプラットフォームの出現に例えていた。人・物・情報が、地理的制約を越えて自由に動き回る「フラットな世界」が実現したように、BIMも、専門分野間、企業間、そしてプロジェクトフェーズ間をつなぐプラットフォームとして、プロジェクト関係者のコラボレーションを密にすることはできないだろうか。

 精巧につくり込んだ3Dモデルを、図面作成の自動化、干渉チェック、シミュレーションなど、限定的に使用することだけがBIMではない。プロジェクト関係者が自在に設計に参加するための環境を提供する。それが、BIMコーディネーターの仕事だと考えている。

平島 ゆきえ (ひらしま ゆきえ)
アラップ東京事務所/BIMコーディネーター
平島 ゆきえ (ひらしま ゆきえ) 南カリフォルニア建築大学 (SCI-Arc) 卒業後、2008-2014年 Buro Happold ロサンゼルス事務所でBIMコーディネーションに携わる。アナハイム公共交通ステーション (ARTIC)、ベイラー大学スタジアム、映画芸術科学アカデミー (AMPAS) を担当後、2014年にアラップ東京事務所に入社。新国立競技場 / Zaha Hadid Architects案、東京オリンピックアクアティクスセンターに携わる。設計プロセスを円滑にするワークフローの提案、コンピュテーショナルデザインを担う人材の育成、BIM導入を推進するプロジェクトリーダーへの技術サポートを行う。
菊地 雪代(きくち ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア電子版にて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載。