BIMレベル2に挑んだ香港メトロ新線

 BIMモデルを介して、設計コーディネーションや、複数プロジェクトの情報管理を円滑に行った例として、アラップの海外事例を紹介する。

 沙田 (Shatin) セントラルリンクは、香港で建設中のメトロ新路線である。香港の中心部と新界の商業地区、沙田を結ぶ計画で、21年の開通を予定している。工事区画は約17kmに及び、その香港島側には、香港コンベンション&エキシビション・センター (HKCEC) 周辺の密集地域が含まれる。アラップは、意匠・構造・設備設計を担当し、プロジェクト全体のBIMマネジメントを行った。

沙田 (Shatin) セントラルリンク延伸工事の香港島側。既存の公共施設とバスターミナルを解体し、同区画内に建て替えた上で、更に展示場駅、路線用トンネル、換気所・換気塔を新築する大規模開発となった(資料:Google Earth Digital Globe)
沙田 (Shatin) セントラルリンク延伸工事の香港島側。既存の公共施設とバスターミナルを解体し、同区画内に建て替えた上で、更に展示場駅、路線用トンネル、換気所・換気塔を新築する大規模開発となった(資料:Google Earth Digital Globe)
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 香港中心部で大規模な解体と施工を並行する難しさに加え、本件は、近隣で進行中の「湾仔 (Wan Chai) バイパス道路」と一部工区が重複しており、調整を必要とする関係者も相当数であった。この関係者全てが、単一環境にアクセスするBIM Level 3が理想ではあるものの、重いモデルデータを統合した環境で、設計作業を同時に行うのは、現状困難である。

既存インフラと建築物のアズビルトモデルを設計チーム内で共有し、プロジェクト全体の進行状況を集積するプラットフォームとした(資料:MTRC)
既存インフラと建築物のアズビルトモデルを設計チーム内で共有し、プロジェクト全体の進行状況を集積するプラットフォームとした(資料:MTRC)
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 そこで、各専門モデルの作成者は、調整を行う必要があるモデルのみを共有サーバーからダウンロードし、各自のローカル環境で設計や調整作業を行った。その成果を定期的に統合モデルに集積する、というワークフローは、BIM Level 2の必要条件である。また、GIS (地理情報システム)データから作成した、既存インフラと建築物のモデル (アズビルトモデル) もプロジェクトチームで共有した。

展示場駅の基礎の設計。既存スポーツセンターの基礎撤去工事を最小限に留める目的で、アズビルトモデルを参照した(資料:MTRC)
展示場駅の基礎の設計。既存スポーツセンターの基礎撤去工事を最小限に留める目的で、アズビルトモデルを参照した(資料:MTRC)
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展示場駅の統合モデル。本件は、2015インターナショナル Autodesk BIM アワードにおいて「Excellence in Infrastructure」部門の1等を受賞している(資料:MTRC)
展示場駅の統合モデル。本件は、2015インターナショナル Autodesk BIM アワードにおいて「Excellence in Infrastructure」部門の1等を受賞している(資料:MTRC)
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