体験を共有するということ

 VR技術を建築業界で応用する目的は、映画やゲームで得られるようなリアリティーを追求するためではないと考える。

 専門家は従来、設計検討の結果を整理してクライアントに提供してきた。今後はその情報を、専門知識を持たない人でもダイレクトに参加できる体験として、プロジェクトチームあるいは一般に提供するスキルも求められるようになるのではないだろうか。体験の共有から得られるフィードバックに専門家が応えることが今後、意思決定の重要な部分を占めるようになるかもしれない。

 表層的なコンテンツを観賞する目的ではなく、意思決定に係る設計のプラットフォームとして利用してこそ、VR技術を建築業界で応用する意義があるのだと思う。ある時は体験者として、またある時は体験の提供者として、多分野のスタッフが自在にVRに関わる数年後を想像している。

平島 ゆきえ(ひらしま・ゆきえ)
アラップ東京事務所/BIMコーディネーター
平島 ゆきえ(ひらしま・ゆきえ) 南カリフォルニア建築大学 (SCI-Arc) 卒業。2008年よりBuro Happold ロサンゼルス事務所でBIMコーディネーションに携わる。2014年にアラップ東京事務所に入社。設計プロセスを円滑にするワークフローの提案、コンピュテーショナルデザインを担う人材の育成、BIMを推進するプロジェクトリーダーへの技術サポートを行う。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア・ウェブにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載