「可視化」と「可聴化」体験の統合

 アラップがSoundLabを開発したのは十数年前のことであるが、SoundLabとVRの連動に着手したのはここ1年のことである。スタジオを設置していないアラップ事務所でも、より多くのプロジェクトで実用化するために、SoundLabのポータブル版に当たる「m|Lab」の運用も開始した。

SoundLabのポータブル版に当たる「m|Lab」。m|Lab の「m」は、mobile に由来する(写真:©Stereotank)
SoundLabのポータブル版に当たる「m|Lab」。m|Lab の「m」は、mobile に由来する(写真:©Stereotank)
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 視覚・聴覚を連動した没入型シミュレーションは試用段階であるものの、アラップは様々な活動に取り組んでいる。

 その一例がガールズデイ(Girl's Day)でのVR体験だ。主催者のVHTOは、科学・技術・IT分野への女性の進出を後押しする活動の一環として、毎年オランダ全国で企業訪問を実施している。アムステルダム事務所は17年4月、34名の女子中学生を迎えた。橋梁設計、インスタレーション、耐震設計、音響設計のワークショップを通してエンジニアの業務を紹介した。

(** VHTO オランダ語の頭文字で Women in Higher Technical Education)
アムステルダム事務所、ガールズデイの様子(写真:©Arup)
アムステルダム事務所、ガールズデイの様子(写真:©Arup)
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 音響設計ワークショップの参加者には、m|Labを体験してもらった。「モノフォニック方式」や「ステレオフォニック方式」に比べ、SoundLabで用いる「アンビソニックス方式」(複数のスピーカーから音源を立体的に再生する)を一般に体験する機会は少ない。シミュレーション音源と、竣工後に収録された音源を比較しながら、基本的なフォーマットの違いを説明した。

 彼女たちはその後、自分で操作した3Dモデルをm|Labで可視化・可聴化するエクササイズを行った。設計したシアターをVRで内側から体験した時には、「Geweldig! (すごい!)」の歓声が飛び交った。女子学生にとって、設計技術をより身近に感じる機会となったことを願っている。