Green Envelopeが過密都市を救う

 いま改めて緑化への取り組みが加速している。その背景にあるのは、サステイナビリティーに対する意識の変化ではないかと私は考える。これまでは、消費エネルギーをいかに減らすか、ということが建築の命題であった。少ないエネルギーで長生きする、いわば“建築の健康”こそがサステイナブルと考えられていた。しかし、利用者である私たち人間が快適に、健やかに過ごせなければ、その健康も長くは続かない。視点は、“人間の健康”へと移りつつあるのではないだろうか。現に米国では、緑が利用者の心身に与える効果が、価値として高く評価されている。

 いかにして過密化する都市の中に緑を取り戻し、多様な生物と共存するか。それは“人間の健康”を考えるうえで、大きなテーマの1つだ。そして、おそらくその答えは、屋上緑化・壁面緑化という言葉でくくられるものではない。建築のかたちは、植物にとって地形となり得る。崖に草が生え、丘に木が茂り、窪みに鳥が宿るように、建築のつくり出す地形が都市のBiodiversity(生物多様性)の地盤となる日が来るかもしれない。

都市の生物多様性を描いたイメージ(資料:Arup/ UK Green Buildings Council、2015)
都市の生物多様性を描いたイメージ(資料:Arup/ UK Green Buildings Council、2015)
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<br />建築のかたちがつくり出す環境(右図)が自然の崖によって生まれる環境(左図に)に類似していることを示した図
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(資料:Arup/ Tessa Brunette)<br />&nbsp;<br />&nbsp;<br />&nbsp;
(資料:Arup/ Tessa Brunette)
 
 
 
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建築のかたちがつくり出す環境(右図)が自然の崖によって生まれる環境(左図に)に類似していることを示した図
柿川 麻衣(かきかわ まい)
アラップ東京事務所/ファサードエンジニア
柿川 麻衣(かきかわ まい) LEED評価員(NC)。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了後、2010年アラップ東京事務所に入社。外装設計に加え、自然換気や日射制御等の室内環境から屋外の風環境まで、幅広く外装のエンジニアリング・コンサルティングに携わる。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア電子版にて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載。