なぜ海外で緑化が進むのか

 緑化を掲げた場合には、施工や維持管理にかかるコストと手間が懸念される。それは日本も海外も変わらない。にもかかわらず、なぜ海外で大規模化、高層化が進むのか。

屋上緑化に係る損益を投資効果の指標である正味現在価値(NPV)で示したグラフ。左から順に、(1)撤去、敷設、維持管理、(2)雨水流出、(3)エネルギー、(4)CO2(排出量、吸収量、炭素固定)、(5)不動産価値(価格、賃料、稼働率)、(6)周辺環境への影響(生物多様性、空気質、ヒートアイランド)――の項目を示す。不動産価値の項目はグラフの上限値を超えている<br/>(出典:“The Benefits and Challenges of Green Roofs on Public and Commercial Buildings” General Service Administration, 2011)
屋上緑化に係る損益を投資効果の指標である正味現在価値(NPV)で示したグラフ。左から順に、(1)撤去、敷設、維持管理、(2)雨水流出、(3)エネルギー、(4)CO2(排出量、吸収量、炭素固定)、(5)不動産価値(価格、賃料、稼働率)、(6)周辺環境への影響(生物多様性、空気質、ヒートアイランド)――の項目を示す。不動産価値の項目はグラフの上限値を超えている
(出典:“The Benefits and Challenges of Green Roofs on Public and Commercial Buildings” General Service Administration, 2011)
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(注)雨水流出に対する意識の高い米国では、各自治体で雨水処理に対する課金制度を設けているため、雨水流出抑制の経済効果が大きく表れる

 注目されるのが、米国最大級の公共発注者である米国連邦調達庁(General Service Administration)が実施した、屋上緑化の経済効果に関する調査報告だ。既存建物の屋根を緑化し、50年間建物を使用した場合の損益の試算が示されている。これによれば、緑化屋根の設置とメンテナンス関係する損失はNPV(正味現在価値)で18ドル/ft2(約2万円/m2)。これに対し、一次的な利益は雨水流出抑制による14ドル/ft2と省エネによる7ドル/ft2。投資回収期間は約6年、内部収益率は5%程度と示されている。

 ここまででは、必ずしも屋上緑化の投資効果が大きいとはいえない。特筆すべきは二次的な経済効果だ。二次的な経済効果として挙げられた3項目のうち、不動産価値に与える効果(NPV100ドル/ft2)と周辺環境への影響(NPV31ドル/ft2)は高い値を示していることがわかる。さらに、快適性、知的生産性の向上といった経済効果に表れない効果も大きいと添えられていた。

 すなわち、建築に植物をあしらうことのベネフィットは、ヒートアイランドの抑制や空気質の改善といった周辺環境への効果と、利用者の心身に与える効果なのだ。それは、建物の運用に関連する収支だけでは計れない。しかし、確実に経済活動にプラスの影響を与えるものだ。

 米国では、このベネフィットが適正に評価され、不動産価値に反映されている。この市場の仕組みこそが、海外で緑化を推し進める原動力とは考えられないだろうか。