レンガ積みの壁でスパンを飛ばす

 この地域では地震もあるため、構造設計に際しては、調査の結果、地表最大加速度を0.2g、再現期間を475年と設定した。

 構造体はコンクリート打ち放しの仕上げとなり、意匠の重要な要素でもある。施工者を選ぶときには、事前に目標とするコンクリート仕上げのサンプルを設計側から提示し、求めている品質を理解してもらったうえで応札というプロセスにしたそうだ。

 また、ケリチョという主要都市から遠隔地であること、メンテナンスを容易にすることなどを考え、木材、タイル、石、コンクリートといった材料は地場産材を使い、現地で加工した。このあたりの地元の施工性やサプライチェーンなどの情報は、現地の熟練したパートナーによる情報提供が不可欠であった。

急激な温度変化を抑えるため、コンクリートの床や構造体をサーマル・マス(蓄熱体)として使っている(写真:Edmund Sumner)
急激な温度変化を抑えるため、コンクリートの床や構造体をサーマル・マス(蓄熱体)として使っている(写真:Edmund Sumner)
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 大きな三角形の屋根の下には、レンガ積みの壁がある。ここでは枠組み組積造(Confined Masonry)という構法が採られている。柱と梁を鉄筋コンクリートでつくり、その間をレンガなどで埋めていく手法である。

 ケリチョ大聖堂では、さらにスパンを飛ばす目的で、最初にレンガを積んでおいて、その周辺にレンガ厚と同じ幅を有する鉄筋コンクリート造の柱と梁を後打ちすることで、柱とレンガを一体化した。レンガの凹凸にコンクリートが流れ込み、レンガとコンクリートが歯車のようにしっかりとかみ合っている。

打ち放しコンクリートのため、骨材となる砂の色まで配慮して材料を選定した(写真:Arup)
打ち放しコンクリートのため、骨材となる砂の色まで配慮して材料を選定した(写真:Arup)
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 イギリス風の庭と日本のような茶畑、そこにカトリック教会。これがアフリカなのかと一瞬、違和感を持った後、固定観念で凝り固まっていたと反省。この原稿を書いている間に、オーガニック・マーケットでケニア紅茶を見つけたので試してみた。柔らかい味わいだった。どこかで個性的なパンチのある風味を想像していた自分に気付き、また反省した。

アラップの発表資料(英語)

プロジェクト概要

  • クライアント:Diocese of Kericho
  • 規模:2800m2(うち身廊部1375m2)
  • 総工費:300万ドル(約3億3000万円)
  • 意匠設計:John McAslan + Partners, Architect
  • ローカルアーキテクト:Triad
  • エンジニア:Arup
  • 内装設計:Cecile and Boyd cc
  • 施工者:Esteel Construction Ltd.
  • 竣工:2015年
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引士、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。