使用期限後は元の自然の状態に

 このロッジの運用開始から10年以上が経過しているが、アラップは引き続き構造のチェックなどを担当している。最近行われた調査では、状況は良好ではあるが、外部のシャワースペースや基礎で湿気の高い部分には木の腐食やシロアリによる被害が見られるということだ。これは日本で生活している我々には容易に想像がつく事象である。

下水は菌を利用してバイオ分解され、アシが積み重なったフィルターでこされる。2台の500kVAの発電機が電気を供給しているが、地面の起伏を利用してサウンドマスク(遮音)している(写真:Arup)
下水は菌を利用してバイオ分解され、アシが積み重なったフィルターでこされる。2台の500kVAの発電機が電気を供給しているが、地面の起伏を利用してサウンドマスク(遮音)している(写真:Arup)
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 使用権の期限が来れば、これらの建物は完全に撤去され、元の自然な状態に戻す予定である。近年、世界的に建築の環境配慮は一般的になり、様々な工夫をしてCO2削減を図っているが、地場の材料を使い、役割を終えた建築を撤去して元の自然の状態に戻す、というシンプルなライフサイクルの力強さには敵わないだろう。建設という環境破壊行為と、省エネなどの環境配慮という矛盾した行為を並行して行うことの違和感を、最終的に”土に返す”ことで多少なりとも払拭できる。

国立公園の雄大な景色を堪能できるよう、開放感を大切にした客室(写真:Arup)
国立公園の雄大な景色を堪能できるよう、開放感を大切にした客室(写真:Arup)
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 さて、クルーガー国立公園だが、観光に最適な季節は乾季である5~8月だそうだ。ご紹介した通り、このロッジはいわゆる高級な仕様の建築ではないが、一般人には手が出しにくい高級リゾートである。まだ空室があるようなので、夏のボーナスが期待できる方は、今年の夏休みの行き先にいかがだろうか?

アラップの発表資料(英語)

プロジェクト概要

  • クライアント:Singita Market (Pty) Ltd
  • 意匠設計:OMM Design Workshop cc
  • 構造設計:Arup
  • 機械設備設計:Langford Associates
  • 電気設計:WSP Consulting Engineers
  • 環境コンサルタント:Environbiz Africa
  • 内装設計:Cecile and Boyd cc
  • 施工者:Krombou Konstruksie
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引士、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。