熱帯地域でいかに外部空間を楽しむか

 これまで、熱帯地域の開発では、高層ビルの足元に巨大なポディアムやアトリウムをつくって完全に冷房する事例がほとんどで、それがおもてなしでもあった。それが近年では、シンガポールのクラーク・キーのキャノピー(ETFEの外部キャノピー)のような、熱帯地域でもいかにエコに、快適に、外部空間を楽しめるか、という課題にシフトして来ているように思う。それはもちろん世界的な環境意識の高まりもあり、成熟した文化ならではの発想でもあるだろう。サウス・ビーチのキャノピー下でも飲食店が集まり、アクティビティーや交通の要所として人が行き交う。

建築家が形状を考え、エンジニアがパラメーターを動かし、解析をし、また形状を調整し…という協働作業がここでも行われた(資料:Arup)
建築家が形状を考え、エンジニアがパラメーターを動かし、解析をし、また形状を調整し…という協働作業がここでも行われた(資料:Arup)
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 思えば、中国の南部から台湾、マレーシア、シンガポールにかけての暑くて雨の多い地域は、古くから雨よけが連続したアーケードのような建築様式(5 foot way。歩廊の幅が1.5m程度だったことから)があった。それが華僑の移動とともに各地に広まった。椅子を出して飲食をしたり、店舗の商品を並べたり、公衆電話を置いたり、日々の生活が溢れ出る場所であった。

 それらの建築はシンガポールの一部で保存地域に指定され、今でも見ることができる。そう、このシンガポールには昔から、雨や日差しを遮りながら楽しく街を歩く建築様式が確立されていたのだ。このリボン・キャノピーは、時を経た5 foot wayの進化版なのかもしれない。

様々な省エネ要素を集めたこのプロジェクトは、年間2000MWhの節電と、17万4000m3の節水を実現している。シンガポールの建築環境評価制度であるグリーン・マークの「プラチナ認証」を取得している(写真:Arup)
様々な省エネ要素を集めたこのプロジェクトは、年間2000MWhの節電と、17万4000m3の節水を実現している。シンガポールの建築環境評価制度であるグリーン・マークの「プラチナ認証」を取得している(写真:Arup)
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アラップの発表資料

プロジェクト概要

  • クライアント:South Beach Consortium Pte. Ltd.
  • 意匠設計:Foster + Partners, Aedas
  • 構造設計:Arup
  • 施工:Hyundai Engineering
  • 竣工:2015年12月
  • 工事費:8億5000万シンガポールドル(約680億円)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引士、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。