熱帯地域でいかに外部空間を楽しむか
これまで、熱帯地域の開発では、高層ビルの足元に巨大なポディアムやアトリウムをつくって完全に冷房する事例がほとんどで、それがおもてなしでもあった。それが近年では、シンガポールのクラーク・キーのキャノピー(ETFEの外部キャノピー)のような、熱帯地域でもいかにエコに、快適に、外部空間を楽しめるか、という課題にシフトして来ているように思う。それはもちろん世界的な環境意識の高まりもあり、成熟した文化ならではの発想でもあるだろう。サウス・ビーチのキャノピー下でも飲食店が集まり、アクティビティーや交通の要所として人が行き交う。
思えば、中国の南部から台湾、マレーシア、シンガポールにかけての暑くて雨の多い地域は、古くから雨よけが連続したアーケードのような建築様式(5 foot way。歩廊の幅が1.5m程度だったことから)があった。それが華僑の移動とともに各地に広まった。椅子を出して飲食をしたり、店舗の商品を並べたり、公衆電話を置いたり、日々の生活が溢れ出る場所であった。
それらの建築はシンガポールの一部で保存地域に指定され、今でも見ることができる。そう、このシンガポールには昔から、雨や日差しを遮りながら楽しく街を歩く建築様式が確立されていたのだ。このリボン・キャノピーは、時を経た5 foot wayの進化版なのかもしれない。
プロジェクト概要
- クライアント:South Beach Consortium Pte. Ltd.
- 意匠設計:Foster + Partners, Aedas
- 構造設計:Arup
- 施工:Hyundai Engineering
- 竣工:2015年12月
- 工事費:8億5000万シンガポールドル(約680億円)