チャンギ空港の第5ターミナルの計画、ジュロン地区の副都心化計画など、次々と大型のプロジェクト計画が発表されるシンガポール。その華やかさもさることながら、熱帯の気候を積極的に活用する工夫を凝らした計画も増えている。

 今回紹介するのは、2015年末に竣工し、話題のスポットとして2016年に注目を浴びたプロジェクト、「サウス・ビーチ」だ。意匠設計は英国の設計事務所、フォスター+パートナーズが手掛けた。

南西側から開発地域全体を見る。南のタワーはホテルとアパートメント、北のタワーはオフィスとなっている。 写真左側のテラコッタの屋根の建物はラッフルズ・ホテル、右側の白い凹凸屋根の建物はサンテック・シティ(展示場)だ(写真:Arup)
南西側から開発地域全体を見る。南のタワーはホテルとアパートメント、北のタワーはオフィスとなっている。 写真左側のテラコッタの屋根の建物はラッフルズ・ホテル、右側の白い凹凸屋根の建物はサンテック・シティ(展示場)だ(写真:Arup)
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中心部で最後と言われる巨大開発

 サウス・ビーチの敷地は、かの有名なラッフルズ・ホテルの隣にある。すでに過密な中心部において、この規模は最後の数件ではないかと言われる敷地面積3.5haの巨大開発だ。

 総床面積14万7000m2のプロジェクトは、「く」の字ような傾斜のあるファサードを持つ45階建てと34階建ての2棟のタワー、小売店舗やオフィスが入る5層のポディアム(低層部)と、その足元で波打つ長さ280mのキャノピーから成る。またこの開発地域には、かつてシンガポール軍が使っていた既存建物も保存対象として含まれている。キャノピーからは地下鉄MRTのエスプラネード駅にアクセスも可能であり、様々な要素が絡み合うまさに複合プロジェクトである。

サウス・ビーチの全体構成。日射、昼光、通風(風速)など、様々なシミュレーションを実施した。また、シンガポールの「City in a garden(庭の中の都市)」のコンセプトを受け継ぐかのように、密集して植物が植えられた屋上庭園もある(資料:Arup)
サウス・ビーチの全体構成。日射、昼光、通風(風速)など、様々なシミュレーションを実施した。また、シンガポールの「City in a garden(庭の中の都市)」のコンセプトを受け継ぐかのように、密集して植物が植えられた屋上庭園もある(資料:Arup)
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 敷地は、沖積層の上に軟らかい海底粘土や堆積物が沈殿した場所である。地下水を排除し、地下工事と上部躯体工事を同時に行って工期短縮するために、直径85mが2カ所と直径89mが1カ所のコファーダム(囲い堰)を構築してから工事を進めた。

日射の強いタワーの東西面は、外部ルーバーのある2重ガラス、Low-eガラスを使っている。比較的日射の弱い南北面はシングルガラスである。この写真は北面(写真:Arup)
日射の強いタワーの東西面は、外部ルーバーのある2重ガラス、Low-eガラスを使っている。比較的日射の弱い南北面はシングルガラスである。この写真は北面(写真:Arup)
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タワーで受けた風が、地上階まで下りて行き、グラウンドレベルに涼風をもたらすというコンセプト(写真:Arup)
タワーで受けた風が、地上階まで下りて行き、グラウンドレベルに涼風をもたらすというコンセプト(写真:Arup)
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