アラップ・トータルデザインの舞台ウラ

超高層の外皮に木製ブラインド?省エネ時代の薄型外装

アラップ・トータルデザインの舞台ウラ(50)

2017/03/15

日経アーキテクチュア

超高層ビルのガラスのカーテンウォールが一般的となり、様々な構法が生まれ、ガラス自体の性能も進化してきた。しかし、外壁・窓としての性能は決してないがしろにできないため、意匠面や運用面では制約があったのも事実だ。今回取り上げる新型カーテンウオールは、その制約を緩和し、超高層ビルの表現方法を次世代へと導くものかもしれない。アラップのファサード・エンジニアが海外事例を用いて紹介する。(菊地 雪代/アラップ)

 2016年6月にシドニーで竣工した、「200 George Street」。オーストラリアの大手ディベロッパー、ミルバックが本社を置く、高さ150mのオフィスビルである。一見すると普通のガラスカーテンウオールだが、独特な色調であることにお気づきだろうか。ブロンズ色のガラスにも見えるが、そうではない。

200 George Streetの外観。外装の茶系の色味は、透過率の高いガラスの内側に見える木製ブラインドによるものである(写真:Alexander Mayes)

 実はこの独特な色調、ガラスの内側にある木製ブラインドによるものなのだ。超高層のオフィスビルに、全面的に木製ブラインドを使用することは、極めて珍しい。

 もう1つ注目すべきは、ブラインドがしっかりと視認できるほどに透明なガラス。外皮の熱的性能を考えれば、当然Low-E複層ガラスが必要なはずだが、それはガラスの色味や反射特性の変化を伴う。すなわち、外側に使われているのは、Low-Eガラスではなく透明のガラスなのだ。

 しかし、200 George Streetは、外皮性能をあきらめたわけではない。高い外皮性能を実現し、オーストラリアの2つ環境性能格付け制度で最高位を獲得している。

 なぜ、透明度の高い外観と優れた外皮性能を両立できたのか。この外装デザインを可能にしたのは、「クローズド・キャビティ・ファサード」(CCF)と呼ばれる新しい外装システムである。

清掃要らずの「CCF」

200 George Streetの内観。薄いキャビティ内に木製ブラインドが納められている様子が確認できる(写真:Alexander Mayes)

 欧州を皮切りに世界に広まりつつある、クローズド・キャビティ・ファサード(CCF)。読んで字のごとく、閉じたキャビティ(空気層)を持つ外装システムである。透明な単板ガラスのアウタースキン、ブラインド、Low-E複層ガラスのインナースキンで構成される。密閉型ダブルスキンともいえる。

 驚かれるかもしれないが、この密閉キャビティは基本的に開閉、清掃を行わない。ブラインドの故障などに備え、天井裏などへのアクセスは確保されているものの、ブラインド交換の場合には、ガラスを取り外すことになる。

 CCFは、ブラインドを含め、全て工場内のクリーンルームでユニット化し、キャビティを密閉する。しかし、“密閉”と言えど、サッシの気密性能には限界がある。そのままでは、微細な隙間から室内外の湿気やほこりが侵入する可能性がある。

CCFの概念図。キャビティには、細いチューブから乾燥空気が導入される(資料:Permasteelisa Group)

 これを防ぐため、キャビティには、サッシの漏気量に相当するわずかな量の乾燥空気を絶えず供給している。キャビティ内を常に正圧に保つことで、外側からの空気の流入を防いでいるのだ。

 「空気を供給」と聞くと、エアフローウィンドーのように空調と連動した大掛かりなものを想像されるかもしれないが、カーテンウオールユニットに接続されるのは細いチューブのみ。空調設備とは別に、細い配管を設け、屋上に設置したコンプレッサーから、乾燥空気を各ユニットに搬送する。これにより、二重サッシに心配されるような、結露や汚れの付着といったリスクが解消されるのだ。

キャビティを“閉じる”強み

 キャビティを“閉じる”ことの強みは大きく分けて3つある。これを、従来のダブルスキンと比較しながらみていきたい。

ダブルスキンとCCFの比較(資料:Arup)

 1つは、メンテナンス性である。キャビティが常に外気にさらされた屋外となるダブルスキンは、アウタースキンとインナースキンの定期的な清掃が必要である。一方のCCFは、先に述べた通り、清掃を必要としない。

 これが、2つ目の意匠・計画の自由度に影響を与える。ダブルスキンのキャビティには、人が通行し、清掃作業を行うに十分な奥行き(600mm程度)が求められる。この奥行きは、居室面積の減少を意味する。これに対し、清掃不要のCCFは、ブラインドの納まりに必要な最小限の寸法までキャビティの奥行きを抑えることができるのだ。

 アウタースキンの換気口も意匠を左右する要素として挙げられる。キャビティ内に外気を通気させるダブルスキンは、アウタースキンにガラリやスリットといった開口を設ける必要があるが、CCFにこの開口は不要。一般のカーテンウオールと変わりないすっきりとした外観が可能である。キャビティが屋外となるダブルスキンとは違い、木材のような屋外使用のできない材料、製品を使えることも大きな強みといえよう。

 最後は、施工性の高さである。ダブルスキンは、多くの場合、アウターとインナーを別々に取り付ける必要がある。CCFは一体のユニットとして製作して取り付けるため、単純に考えれば取り付けの作業が半分に減ることになる。

温度上昇の影響は?

 キャビティを密閉したCCFは、いわば大きな複層ガラス。断熱性能がダブルスキンに比べ高いことは一目瞭然である。では、日射遮蔽性能はどうだろうか。

 キャビティ内のブラインドで日射を遮蔽する。これは、ダブルスキンとCCFに共通する基本方針である。ブラインドが吸収した日射は熱として再放射され、キャビティ内の空気の温度を上昇させる。ダブルスキンは、アウタースキンに開口を設け、換気を行うことで、この熱を排出するという仕組みである。

 一方のCCFは、排熱の仕組みを持たない。温められた空気をキャビティ内に閉じ込めてしまう。ここで、多くの方が懸念されるのは、キャビティからの熱伝導による負荷と輻射熱の影響だろう。

200 George Streetの外装概要。高透過ガラスのアウタースキン、木製ブラインド、アルゴンガス入りLow-E複層ガラスのインナースキンで構成される。日射負荷が小さいため、ペリメーター空調には輻射空調が採用された(資料:Arup)

 オーストラリアで初めてCCFを採用した200 George Streetでも、同様の懸念が浮上した。そこで、キャビティの温度上昇の影響を明らかにするため、様々な解析と実験を重ねた。

 まず、サッシの影響も含めた机上のモデルで、キャビティからの複雑な熱伝導を解いた。ガラスを介した熱伝導を最小限に抑えるため、インナースキンにはアルゴンガス入りのLow-E複層ガラスが選ばれた。

 さらに、太陽光下の実大実験で、各部の温度や熱量を測定し、机上のスタディーを実証した。結果として、200 George StreetのCCFは、一般的なオフィスの外装(庇などの対策を含む)に比べ、40%以上日射負荷を低減することが確認されている。

 なお、温度上昇したキャビティ内で使用される木製ブラインドについても、耐久性試験を実施した。様々な温度環境を想定した繰り返し試験を行い、少なくとも10年間の使用に耐え得ることを確認した。

 コンペ時の外装コンセプト提案から、この一連のCCFの性能検証までを主導したのは、アラップ・シドニー事務所の環境デザイン(ESD)チームである。アラップは、その他、設備設計、火災安全設計、Vertical Transportation(縦動線計画)、照明設計のサービスも提供した。

ロンドンの歴史的建造物でも採用

 もう1つ、CCFを採用した事例を紹介したい。2016年、ロンドンに竣工した「1 New Burlington Place」は、歴史的建造物に指定された建物のファサードを保存し、新たにオフィスと店舗の複合施設に改修したプロジェクトである。アラップはファサードエンジニアリングを担った。

1 New Burlington Placeの路地側外観。外壁面が鉛直方向に大きく湾曲している。(写真:Paul Carstairs/Arup)

 通りに面した2面は、1920年代のネオクラシック様式を保存し、裏側の2面をガラスカーテンウオールに刷新した。圧迫感を低減し、路地に光を多く取り込むため、外壁ラインは鉛直方向に大きく弧を描いている。

 計画当初に検討したのは、ダブルスキンだった。しかし、ロンドン市内の事業採算を考えれば、キャビティによる床面積の減少は、致命的な痛手となる。そこで、選択されたのがCCF。キャビティの奥行きは通常のダブルスキンの半分以下、225mmに抑えている。この先進的な取り組みが評価され、World Architecture News Awardsのファサード賞も受賞した。

 200 George Streetでは透明だったアウタースキンだが、ここでは異なる試みを行った。アウタースキンのガラスに遮蔽性能を与えれば、ブラインドが担う日射量を低減できる。結果として、キャビティ内の温度上昇が抑えられるうえ、外皮全体の遮蔽性能も高めることができる。

 アウタースキンの遮蔽として用いたのは、Low-Eガラスとセラミックプリントである。Low-Eガラスといっても、通常のように複層ガラスとして使うのではなく、合わせガラスとして使用する。

 キャビティ内の熱をなるべく外に伝えるためには、アウタースキンの断熱性能は低くなくてはならない。複層ガラスで高い断熱性能を発揮するLow-Eガラスも、合わせガラスにすれば膜のない透明ガラスと同じ断熱性能となる。Low-E膜の遮蔽の機能のみを利用するのだ。

セラミックプリントでさらなる日射制御

 先述の通り、1 New Burlington Placeの外壁面は鉛直方向に湾曲している。カーテンウオールは上階に行くほど上向きに傾斜しているため、日射負荷は上階の方が大きい。アウタースキンの検討には、セラミックプリントの有無、Low-E膜の品種、ブラインドの有無をパラメータとし、温熱環境解析を数限りなく行った。

1 New Burlington Placeの最上階内観。上向きに傾いた上部のガラスには、高い遮蔽率でセラミックプリントが施されている。(写真:Paul Carstairs/Arup)

 年間の解析結果から各階のキャビティ内のピーク温度、日射遮蔽性能、さらにはブラインド必要時間数を算出。上向きに傾斜した部分にはLow-Eガラスとセラミックプリントを施し、鉛直面および下向きの部分は透明とする仕様に決定した。セラミックプリントは、珍しい6角形パターンで、上階の遮蔽としてだけでなく、下階では意匠として展開されている。

セラミックプリントのパターンは6角形で構成される(写真:Paul Carstairs/Arup)

省エネの新たな選択肢

 いよいよ始まる省エネ基準適合義務化に向け、戦々恐々とする今日。省エネ適判において、外皮性能PAL*の届け出は義務付けこそされていないものの、当然、外皮性能は建築全体の一次消費エネルギーを大きく左右する。これまでも日本では、外皮性能への要求の高まりから、エアフローウィンドウやダブルスキンといった様々な外装システムが登場してきた。

 CCFは、キャビティを密閉し、清掃しないという日本の慣習からはにわかに信じがたいシステムかもしれない。世界でもまだカーテンウオールメーカー2社しか技術を持たない。しかし、意匠的な自由度の高さにおいては、他のシステムに比べ大きく抜きん出ている。省エネは意匠の妥協を伴うという既成概念に、一石を投じる新たな選択肢となり得るのではないだろうか。

柿川 麻衣(かきかわ まい)
アラップ東京事務所/ファサードエンジニア
柿川 麻衣(かきかわ まい) LEED評価員(NC)。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了後、2010年アラップ東京事務所に入社。外装設計に加え、自然換気や日射制御等の室内環境から屋外の風環境まで、幅広く外装のエンジニアリング・コンサルティングに携わる。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア・ウェブにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載

日経アーキテクチュア