選手と観客の一体感、視線の確保、避難、搬入、メンテナンス、周辺環境との調和や意匠性など、スタジアムの設計には、そのスケール感ゆえの多くの特別な配慮が要求される。今回は、世界の著名なスタジアムの事例を盛り込みながら、スタジアムの特殊な要件を3次元モデル化して検証可能としたソフトウェアと、その設計手法を紹介する。(菊地 雪代 / アラップ)

 都市のランドマークとなるスタジアム。斬新な外観デザインに注目が集まるが、スタジアムの醍醐味はそれだけではない。いったんスタジアムの中に入ると、数万人の興奮と熱気に包まれる。地響きのような大歓声と同時に、心の底からエネルギーが湧き上がる。観客とプレーヤーの一体感を生むために要となるのがボウル(すり鉢状の観客席)の設計だ。スタジアムデザインの最前線を紹介する。

アリアンツアリーナ(ドイツ・ミュンヘン)<br/>2003年竣工<br/>サッカー専用競技場
アリアンツアリーナ(ドイツ・ミュンヘン)
2003年竣工
サッカー専用競技場
[画像のクリックで拡大表示]
北京国家体育場(中国・北京)<br/>2008年竣工<br/>サッカー・陸上競技の総合競技場
北京国家体育場(中国・北京)
2008年竣工
サッカー・陸上競技の総合競技場
[画像のクリックで拡大表示]
シンガポール・スポーツ・ハブ(シンガポール)<br/>2014年竣工<br/>サッカー・ラグビー・クリケット・陸上競技の総合競技場
シンガポール・スポーツ・ハブ(シンガポール)
2014年竣工
サッカー・ラグビー・クリケット・陸上競技の総合競技場
[画像のクリックで拡大表示]
(資料:Arup)

観客とフィールドの距離

 ボウルの設計において重要となるポイントの1つは、観客席とフィールドの距離の近さである。観客とフィールドにいるプレーヤーの距離が近いほど臨場感を得ることができるからだ。この距離は、使用目的とされる競技種目で条件が異なる。

 サッカー専用スタジアムであれば、何万人もの観客とプレーヤーとの一体感を図るために、フィールドにできるだけ近いところから観戦できるように設計される。陸上競技との併用となれば、フィールドの外側に陸上トラックが配置されるため、陸上トラックよりも外側に観客席が設けられる。

 例えば、 「シンガポール・スポーツ・ハブ」はサッカー、ラグビー、クリケット、陸上競技のいずれの大会も開催できるように計画された世界で唯一のスタジアムである。各競技種目によって最適な座席配置となるように可動座席を3万席設置することにより、サッカーフィールドに最短距離で12.5mまで近付けることを実現した。

サッカーモード
サッカーモード
[画像のクリックで拡大表示]
クリケットモード
クリケットモード
[画像のクリックで拡大表示]
陸上モード
陸上モード
[画像のクリックで拡大表示]
シンガポール・スポーツ・ハブの席配置(写真・資料:Arup)