スタジアム専門家と建築家、エンジニアの共同作業

 ボウルの形態は、観客席の配置のみならず、敷地条件、周辺への影響、観客席を覆う屋根の形状、天然芝への日射の確保などの制約と照らし合わせることによって決まる。建築計画、構造・環境性能など互いに関係し合うこれらの多様な条件に適合する案は、1つとはならず複数生まれる。

 その相互関係を把握し、複数あるオプションを相対的に比較しながらパラメーターを調整することで、最適解を導き出す。StaGによって生成したボウル形状とそれを覆う屋根、コンコースなど平面計画との関係性を効率的に比較検討することで、スタジアム全体への影響を検証していく。

 これらの条件整理と結果の判断は、数々のスタジアム設計経験を持つ専門家と建築家、エンジニアとの共同作業によって行われる。3次元CADを単なる形をつくるツールに留めるのではなく、構造や環境・設備、ファサードなどいかに様々なエンジニアリングをそこに統合するかがスタジアムデザインの鍵となる。

KASC Stadium(キング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアム、2004年竣工。サウジアラビア北部にある約6万席収容のスタジアム)。ボウルを覆う屋根とファサードを統合したパラメトリックモデリング(資料:Arup)
KASC Stadium(キング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアム、2004年竣工。サウジアラビア北部にある約6万席収容のスタジアム)。ボウルを覆う屋根とファサードを統合したパラメトリックモデリング(資料:Arup)
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ボウルの構造解析モデルの生成例。StaGにより生成した3次元形態をもとに柱や梁を配置し、自社開発の構造解析ソフト(GSA)と連動するプログラム。床の重量や、地震力、風圧力などの条件をプログラミングしておくことでボウルの形態の変更に対し迅速に対応できる(資料:Arup)
ボウルの構造解析モデルの生成例。StaGにより生成した3次元形態をもとに柱や梁を配置し、自社開発の構造解析ソフト(GSA)と連動するプログラム。床の重量や、地震力、風圧力などの条件をプログラミングしておくことでボウルの形態の変更に対し迅速に対応できる(資料:Arup)
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 StaGは、今やアラップが世界中で手掛けるスタジアムやスポーツ施設の設計ツールとして欠かせないソフトとなりつつあり、今後更なる進化が期待される。

 スタジアムに限らず建物全般の設計プロセスのなかで、様々なエンジニアリングを統合し多面的に協調しながら具現化することで、独創的なアイデアが生み出される。新しいことに挑戦しようと思う好奇心と情熱が不可能を可能にする。総合エンジニアリング会社のチームワークが成せる技である。

髙松 謙伍(たかまつ・けんご)
シニア構造エンジニア / ビルディングエンジニアリング
髙松 謙伍(たかまつ・けんご) 2009年に東京工業大学大学院を修了後、アラップ東京事務所に入社。2016年よりアラップ シドニー事務所に勤務。 主なプロジェクトは、BMW Guggenheim Lab(2011年竣工)、ミラノサローネ Panasonic "Photosynthesis"(2012年竣工)、MISS HIROSHIMA - Tamaya BLD -(2012年竣工)、ミラノサローネ Lexus "-amazing flow-"(2013年竣工)、小豆島 葺田パヴィリオン(2013年竣工)、星野リゾート「リゾナーレ熱海」BIRD’S NEST ATAMI (2014年竣工)、みんなの森ぎふメディアコスモス(2015年竣工)など。
Toby Clark 、Paul Jeffries/執筆協力
アラップロンドン事務所
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載。