“慈善投資”の仕組みでシェアを実現
こんな手間のかかるプロジェクトを遂行した発注者のドラン氏。単なる音楽好きなパトロンなのかと想像したら、これが少々違っていた。ドラン氏は、子供の頃からピアノやクラシックオルガンを習い、教会で演奏をしてきた。近年では作曲を手がけたり、音楽学校の活動に関わったりしている。
面白いのは、彼が税金のプロであるということだ。税制などを専門にし、本も出版している。ナショナル・ソーダストの設立においては、“慈善投資“という仕組みを活用している。建物をシェア(分担所有)する権利を購入した人からのお金を、NPOに寄付するという仕組みだ。彼はナショナル・ソーダストの賃料は負担していないそうだ。
Bureau Vの創業者の1人である建築家のザスパン氏も、米国南部の町で育ちオペラ歌手の教育を受けた音楽好きである。この音楽的な共通点があったからこそ、ほとんど実施設計の経験が無かったBureau Vを抜擢するに到ったのであろう。Bureau Vは、それまで洋服のデザインをしたり、舞台美術を担当したり、幅広く“デザイン”に関わっている、正にブルックリンのヒップスターを地で行くような集団のようだ。
このチームメンバーを見ても、こだわりのある人たちが集まるブルックリンという街の熱気を感じていただけるだろうし、様々な才能が出会い、新しいものが生まれる場面に立ち会った人たちがナショナル・ソーダストのことを“人材のアルケミスト(錬金術師)”と呼ぶのももっとものように思う。
プロジェクト概要
- 発注者:Kevin Dolan
- 規模:1200m2
- 意匠設計:Bureau V
- 音響設計:Arup
- 総工費:1600万ドル