「音響的に透明」な意匠仕上げ
アラップは音響設計を担当した。このような敷地と建物なので、音響的には非常にチャレンジングだったことは、想像に難くない。
まず、完全にホール部を既存建物から切り離して、浮かせることを考えた。レンガの外皮の中にもう1つ箱を作るイメージだ。ホールの床や壁はバネの上に載せ、天井を吊った。
メーンはジャズだが、ピアノ・ソロ、コーラス、オーケストラなど、様々なジャンルの音楽が演奏されることを想定していたので、音響用の幕を必要に応じて出したりしまったりできる必要があった。さらに、意匠設計者のBureau Vの要求も難しいものだった。「音楽のジャンルによって音響が変わっても、インテリアの見た目は常に同じにして欲しい・・・」。要は、音響用の仕掛けは隠して欲しい、ということだ。
意匠面も音響面も担当者たちは一歩も譲らず、「音響的には透明な意匠仕上げを開発しよう」ということになった。そんなことが可能なのか?
Bureau Vとアラップは、「カスタム・スキン・システム」と名付けた、穴の開いた金属とファブリックでできたパネルを仕上げとすることで課題を解決した。吸音用のカーテンはこのパネルの後ろに隠れている。
結果的には、内観写真のような近未来的な空間が出来上がった。音楽ホール自体は140m2程度で、観客席は170ほど。スタンディングの場合は350人ほど収容できる。付帯設備として、バーやレストラン、オフィス、シャワールームなどがある。ステージは可動式で、70人のオーケストラのレコーディングにも使用可能だ。