3.ワークショップで共通の利益を生み出す

 レジリエンス戦略づくりのプロセスでは、ワークショップは欠かせない。様々なワークショップによる情報収集や交換、討論によってこそ、革新的なアプローチを生み出すことができるからだ。

 100RCではこれを「レジリエンスの配当」と言っている。マイナスの影響を与えかねない状況を有利な条件に転換し、また、CRFで示された複数の要素にプラスの影響を波及させるようなコベネフィットを生み出す戦略の柱を見出す。さらには実効性のあるアクションをデザインし、合意する。

 様々な都市の戦略づくりのプロセスを見ると、多様なメンバーが違った角度から課題を見直すところからイノベーションの芽が出始める。異なった立場や専門性をかけ合わせることによって、より強固な計画がつくられていく。

 また、その過程では、参加者たちが変化をもたらす当事者となっていく。同時に、市の人的、物質的資源の活用と強化、市民社会の力の結集(エンパワメント)が進む。「リソースフル(余剰性)」「フレキシブル(柔軟性)」「インクルーシブ(包摂性)」といったレジリエンスの資質向上という成果をもたらすことも意図されている。

【100RC実例-3】どの都市の戦略も同じようなプロセスを経て策定されるが、生み出される戦略はそれぞれの都市の背景に根ざした独自のものとなる。100RCに選ばれた欧州の都市で最初に「都市レジリエンス戦略」を策定したヴァイレ市(デンマーク)は、気候変動と洪水、高齢化、都市の拡大、産業転換という大きなストレスに直面していた。これに複層的に対応する戦略として、「コクリエーション(ともに創造する)都市」と「スマートシティ」という2つの柱を立て、気候変動レジリエンスと社会的なレジリエンスの2つの柱が交差する領域を掘り下げ、計画づくりを進めた(資料:©Vejle city)
【100RC実例-3】どの都市の戦略も同じようなプロセスを経て策定されるが、生み出される戦略はそれぞれの都市の背景に根ざした独自のものとなる。100RCに選ばれた欧州の都市で最初に「都市レジリエンス戦略」を策定したヴァイレ市(デンマーク)は、気候変動と洪水、高齢化、都市の拡大、産業転換という大きなストレスに直面していた。これに複層的に対応する戦略として、「コクリエーション(ともに創造する)都市」と「スマートシティ」という2つの柱を立て、気候変動レジリエンスと社会的なレジリエンスの2つの柱が交差する領域を掘り下げ、計画づくりを進めた(資料:©Vejle city)
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戦略づくりから実施段階へ

 このような共通のアプローチを経て、2016年末の時点で20都市がレジリエンス戦略の策定を完了した。残りの80都市も次々にレジリエンス戦略をリリースし、実施段階に進むことが見込まれる。

 実施段階では、継続的にステークホルダーとのパートナーシップを重視しながら、資金調達、実施体制の構築など、より詳細で具体的な計画を行い、事業化していくことになる。コンサルタントやソリューションプロバイダー、事業者、デベロッパーなどのアクターにとってはビジネス機会が広がる。このムーブメントに参加していくためには、都市レジリエンスのフレームワークを理解し、レジリエンスの配当を最大化するという観点からの価値提供が欠かせないだろう。

村松 美江(むらまつ・よしえ)
アラップ東京事務所、シニア・プロジェクト・マネージャー/コンサルタント
村松 美江(むらまつ・よしえ) 西武百貨店、JEFL文教施設研究所、ジョンズラングラサールにおいて国内の官民の開発プロジェクト及びJICA(現国際協力機構)、CARE インターナショナルジャパンにおいて海外の災害支援、復興、開発プロジェクトに従事した後、2008年8月アラップ入社。都市レジリエンス戦略や大規模イベントに伴う都市戦略等の都市分野のサービスのほか、関空・伊丹空港運営権売却における技術アドバイザー業務などをリード。神奈川県出身。東京都立大学大学院工学研究科修士課程(建築学)、ロンドン大学(UCL)The Bartlett – Development Planning Unit 修士課程(都市開発計画)修了。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア・ウェブにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載。