10月21日午後2時頃、鳥取県中部で最大震度6弱の地震が発生しました。この時、日経ホームビルダーは「最新 耐震対策セミナー」を東京都内で開催している最中でした。登壇した国土交通省国土技術政策総合研究所の中川貴文さんが、公開されたばかりの地震動を解析して木造住宅への影響を解説してみせ、受講者を驚かせました。今や、ノートパソコンとインターネット環境があれば、短時間で地震被害の予測ができるようになっているのです。

10月21日の耐震対策セミナーで、登壇した中川貴文さんが直前に発生した鳥取中部地震の地震動を解説した (写真:日経ホームビルダー)
10月21日の耐震対策セミナーで、登壇した中川貴文さんが直前に発生した鳥取中部地震の地震動を解説した (写真:日経ホームビルダー)
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 中川さんが開発した木造住宅倒壊解析ソフト「wallstat」(ウオールスタット)も熊本地震の被害分析に大活躍しました。国が組織した「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」で、倒壊した木造住宅の原因分析を担当した中川さんはウオールスタットをフル活用しています。また、本誌の7月号9月号の特集でも活用させていただきました。

 ウオールスタットは、柱や梁、筋かい、金物などの部材情報に基づく建物のモデルを、現実に観測された地震波で揺らして解析します。つまり、個別の住宅がどのような地震でどのような被害を受けるかを、詳細に解析できるのです。セミナーでは熊本地震で現行基準に合致した住宅がなぜ倒壊したかを分析し、どうすれば倒壊を免れたかなど、今後の地震対策について詳しく解説していただきました。

 このように地震対策の技術は、ここ数年で急速に進歩しています。なかでも熊本地震をきっかけに関心が高まっているのが制振システムです。ビルでは普及していますが、戸建て住宅ではまだまだ一般的ではありません。しかし、熊本地震で震度7が連続して発生したことで、繰り返し大きな揺れに襲われても耐震性能を維持できる技術として注目されています。

 ただ、制振システムの普及を難しくしている課題があります。様々なタイプがあるにもかかわらず、共通の評価指針がないことから明確に性能を比べることができず、、製品選びが難しいことです。なかには、本来の性能を発揮しない「粗悪品がある」との指摘もあります。そこで日経ホームビルダー11月号では、特集「“効かない制振”を選ぶな!」で、制振システムの選び方を解説しました。

日経ホームビルダー11月号の特集「“効かない制振”を選ぶな!」 (資料:日経ホームビルダー)
日経ホームビルダー11月号の特集「“効かない制振”を選ぶな!」 (資料:日経ホームビルダー)
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 今後、制振システムが普及するためには、効果を分かりやすく建て主に説明する必要があります。そのヒントが、「配置・設計」を解説したパートの囲み記事(11月号39ページ参照)にあります。

 制振システムを組み込んだ制振壁と一般的な耐震壁の違いは、大地震後に耐力が低下するか否かです。耐震壁は変形量に応じて耐力が低下しますが、制振壁は変形しても耐力が保持されます。しかも、制振壁に高い耐震性能があれば、耐震壁を多く配置したのと同様に建物の変形量を抑える効果も発揮します。変形量が少なければ、構造躯体の損傷も少なくなります。つまり、制振壁が構造躯体を守ってくれるので、大地震後も高い耐震性能を維持できるのです。このことを数値で分かりやすく解説しています。制振システムを導入する際、このように理解しておけば、建て主への効果の説明がしやすくなるはずです。