電通の若手社員が自殺した事件を受けて、長時間労働の問題が社会的に大きくクローズアップされています。「『残業時間が長い』『休日が少ない』――。そんな職場は“ブラック”だ」という烙印(らくいん)を押されてしまう時代を迎えているのです。

 事業の継続や拡大に向けて若手の有望な人材を獲得するうえでも、労働環境を整える重要性は増しています。建設産業だけでなく、あらゆる産業で労働条件や労働環境を整えて若手を奪い合う競争が起こっているからです。これに関連して、「働き方改革」や「生産性向上」といったキーワードが、さまざまな産業で飛び交っています。

 日経ホームビルダー7月号で紹介した2本の特集記事は、「長時間労働」の問題を企画の糸口としています。

 特集1「迫り来る施工品質の崩壊」では、建設産業界における長時間労働の問題に触れました。現場監督の労働条件や労働環境の悪化が、住宅の品質に悪影響を及ぼすのではないかという危機感が企画の根底にあります。実際の欠陥施工の実例や、住宅実務者を対象にした独自のアンケート調査をもとに、厳しい労働条件や労働環境がミスや手抜きをもたらす実情をあぶり出しています。

日経ホームビルダー7月号の特集1「迫り来る施工品質の崩壊」(資料:日経ホームビルダー)
日経ホームビルダー7月号の特集1「迫り来る施工品質の崩壊」(資料:日経ホームビルダー)
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 ここで、その調査結果の一部を紹介しましょう。「現場監督の過労や長時間労働が発生しているか」との問いに対して、「発生している」という回答は53%に達しました。過剰な労働に伴うミスなどの潜在的なリスクが決して低くない状況を示しています。実際に、自社における施工トラブルが「増えている」という声も26%を占めていました。この数字は「減っている」という声の19%を上回っています(詳しい調査結果はこちら)。

 特集記事では、問題を指摘するだけでなく、住宅会社による残業削減の取り組みも紹介しています。長時間労働の問題を抱えている住宅会社の方に、参考にしていただきたいと思います。

 特集2「徹底検証!戸建て向け宅配ボックス」では、2017年2月以降に新製品として発表された戸建て住宅向けの宅配ボックスについて、使い勝手などを検証しています。

 「宅配ボックスと長時間労働に何の関係があるんだ」。そう思う方がいるかもしれません。ここでの長時間労働の問題は住宅会社ではなく、宅配事業者の問題です。

 最近になって宅配事業者における長時間労働の問題が各種メディアで取り上げられ、宅配事業者は値上げや再配達の有償化の検討を進める段階に及んでいます。収益性を上げたり、業務量を抑制したりして、適切な人員で適切な仕事量にするための取り組みにかじを切り始めているのです。

 こうした動きで社会の注目を集めたのが、戸建て向けの宅配ボックスです。宅配ボックスは集合住宅では普及してきましたが、戸建て住宅での採用例は限られています。そうしたなか、パナソニックは17年2月、戸建て向けの宅配ボックスを設置したら再配達が激減したという実験結果を発表。その後、同社の宅配ボックスへの注文が殺到し、新製品の発売時期が延期される事態に至りました。

 「戸建て向け宅配ボックス」は、宅配事業者の長時間労働対策に寄与するだけでなく、将来の再配達の有償化リスクにさらされた住民にとっても魅力的な住宅設備として、注目度が上がっているのです。

 大手住宅会社でも、分譲住宅に標準装備として宅配ボックスを設置する動きが出てきています。住宅会社は今後、顧客から戸建て向け宅配ボックスについて問い合わせを受ける機会が間違いなく増えるでしょう。特集記事では、そうした際に役立つ情報を掲載しています。

 今号も盛りだくさんの日経ホームビルダー7月号。読み応えのある記事をぜひご覧ください。