2017年は読者の皆さんにとってどんな1年だったでしょうか。今年の最終号となる日経アーキテクチュア12月28日号の巻頭では、恒例の「写真で見る 10大ニュース2017」を掲載しています。
この年間ニュース・トップ10は、編集部員の投票で選んでいます。今年最も票を集めたニュースは、7月に発覚した新国立競技場の現場スタッフの過労自殺でした。建築界の「働き方」に厳しい目が向けられたというショックに加え、働き方改革の動きを取材し始めていた矢先の事件に、「もっと早く手をつけていれば…」という無念さを感じた記者も多かったようです。そうしたいろいろな思いを込めての1位だと思います。
2位以降は記事をご覧いただければと思いますが、やはりマイナス方向のニュースが上位に並びます。1年に起こったことを反省しなければ、翌年に正しい一歩を踏み出すことはできない──そうした趣旨の企画ですから、マイナスのテーマが多くなるのは当然といえば当然です。
しかし、反省することは「正しい一歩を踏み出す」ための必要十分条件ではありません。人はやはり、「一歩を踏み出す」ために、誰かに背中を押してほしいものです。そうした意味で昨年から始めたのが「旬の10人に元気をもらう」企画です。特集「編集部が選ぶ 10大建築人2018」を今年も実施しました。
2018年に活躍が期待される10人の建築関係者を選び、その中から最も注目される1人を「アーキテクト・オブ・ザ・イヤー」に選定しました。栄冠に輝いたのは安藤忠雄氏です。
2017年9月27日~12月18日、東京・六本木にある「国立新美術館」で安藤忠雄氏の模型や図面などを展示した「安藤忠雄展─挑戦─」が開催されました。約3カ月間にわたった建築展には30万人以上が来場。来場者の多くは建築関係者ではなく“一般の人”だったようです。
会期終盤に安藤氏に展覧会について聞きました。そのインタビューはこちらでご覧ください。
「光の教会」の原寸大模型(上の写真で安藤氏が立っているのはその模型の中)が大きな話題になったこの展覧会ですが、筆者は、それについては「さすが戦略家の安藤さん」という想定内の印象で(偉そうな言い方ですみません)、むしろ下記の安藤氏の言葉に心を動かされました。
「建築は今、プロセスを知る機会が失われています。それをきちんと見せたい。さらに私の設計活動は住宅から始まりましたので、住宅を中心に展示したいと考えました」
この展覧会は、導入部から延々と小住宅の展示が続き、それが終わった後に「光の教会」の原寸大模型があります。内覧会でその構成を知ったとき、「果たしてこの住宅の展示を一般の人が見るのか」と心配になったのですが、蓋を開けてみると、そこが一番の混雑ポイントになっていました。
プロセスを見せる、という安藤氏の狙いも当たっていて、「建築関係者にしか分からないのでは」と思われた模型やスケッチに、一般の人が食い入るように見入っていました。
筆者は会期中に3回足を運びましたが、後半になるにつれて、展示物に長時間見入る人が増えていくのを実感しました。おそらく会期序盤は安藤氏についてよく知っている人が多く、後半になるにつれて安藤氏を初体験する人が増えていったのだと思います。
「建築は、模型やスケッチをいったん介さなければならないから一般の人に伝わりづらい」。これまでそう考えていたのですが、安藤展を見て、「多くの建築はそもそもメッセージが弱いか、分かりづらいから伝わらない」のかもしれないと思えてきました。
その認識が正しいのか確信はありません。ただ、多くの建築関係者に次の一歩を踏み出す勇気を与えたことは間違いないと思います。
この特集では安藤氏のほかに、以下の“元気印”を紹介しています。
- ▼小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所代表) 最終投票2位
2大タイトルを追い風に 新時代のユニバーサル空間を追求 - ▼印藤正裕氏(清水建設 常務執行役員 生産技術本部長) 最終投票3位
2018年に全ロボットを完成 五輪前の繁忙期に備える - ▼伊藤明子氏(国土交通省住宅局長)
ストック活用に向け法整備 住宅にも「金融」の観点を - ▼岡崎正信氏(オガールプラザ、オガールベース、オガールセンター代表取締役)
地域に雇用と産業を生む 代理人方式を役立てたい - ▼隈研吾氏(東京大学教授、隈研吾建築都市設計事務所主宰)
コミュニティーの再生へ 小規模プロジェクトにも全力 - ▼伊達美和子氏(森トラスト代表取締役社長)
外資高級ホテルとの連携で世界への発信目指す - ▼豊田泰久氏(永田音響設計ロサンゼルス事務所代表・パリ事務所代表)
有名建築家を相手に 世界で音響設計に挑む - ▼豊田啓介氏(noiz共同主宰、gluonパートナー)
縦割りの業界に疑問呈し デジタル技術で壁突破 - ▼坂茂氏(坂茂建築設計代表、NPO法人ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク代表)
被災地支援も設計同等に 社会貢献として世界的評価 - ▼「今後に期待」のこの3組:サルハウス/カワグチテイ建築計画/仲建築設計スタジオ
「1人で考えない」を実践
こちらのページでは、5人のインタビューの詳細版を公開していきます。
それぞれが、それぞれの方向の一歩を踏み出す勇気を与えてくれると思います。ぜひお読みください。