11月24日号の特集は、毎年恒例の「採用したい建材・設備メーカーランキング」です。

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 一級建築士2400人のアンケート回答をもとに、49部門について建材・設備メーカーの採用意向をランキングにまとめました。注目製品の開発秘話なども含め、計30ページを割いた大調査企画です。日経アーキテクチュア購読者の方は、ランキングの詳細データをこちらでご覧いただけます。

 この企画では、採用意向調査だけでなく、「製品選びの主導権が誰にあるか」を部門ごとに聞く実態調査も毎年行っています。今年の調査結果はこれです。

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 49部門のそれぞれについて、「製品選びの主導権を握るプレーヤー」の比率を帯グラフで表したものです。左の濃いグレーが「発注者」、その右の青が「意匠設計者」、その右の薄いグレーが「設備設計者」、さらにその右の薄い水色が「施工者」です。

 筆者はこれまで、ぼんやりとこのグラフを眺めて「まあ、そうだろうな」くらいに流していました。しかし、編集長という立場になって、細かく数字をチェックするようになると、いろいろ気になることが見えてきます。

 特に面白いのは、住宅における発注者の主導権です。発注者の主導権が最大なのは「システムキッチン」(62.2%)です。次いで「システムバス」(51.8%)、「トイレ」(37.5%)。この辺りは、見た目に好き嫌いがあったり、毎日手や肌に触れたりするものは自分で選びたい、という住まい手の思いが想像でき、「まあ、そうだろうな」という感想でしょう。

 意外に思ったのは、トイレよりも主導権比率がやや高い「侵入監視システム」(37.9%)です。「システム」という、「見た目」とも「肌触り」とも無縁なものを、発注者が3分の1以上選んでいるという事実に驚きました。

 割合としては下がるものの、「太陽光発電関連機器」の27.7%、「HEMS」の19.4%も、「タイル、レンガ」(19.1%)や「水回りの金物」(18.6%)よりも高いと知ると、ちょっと驚きです。

 これらはカタログの写真をぱらぱらと見て選べるものではありません。そもそもの仕組みやメリットを知ったうえで、いくつかのメーカーの製品(あるいはシステム)を比較検討して選んでいるわけです。住宅の発注者は「見た目に好き嫌いがあったり、毎日手や肌に触れたりするものだけ自分で選びたい」というのは、幻想なのかもしれません。

 話は少しそれますが、昨年の暮れに「エコハウスのウソ 増補改訂版」という書籍を発刊しました。住宅環境を研究する前真之・東京大学准教授が、日経アーキテクチュアで連載した同名の記事を再編集したものです。編集を担当したのは私なのですが、この本が想像をはるかに超えるほど売れました。「本が売れない」といわれるなか、既に3回増刷しています。

 もちろん、住宅業界の人(つくり手)はそれなりに買うだろうとは思っていました。けれどもそれが「想像を超える売れ行き」となったのは、多くの一般の方(建て主候補)が興味を持って買ってくださったからです。

 住宅の性能について真剣に勉強する建て主は、確実に増えています。これからは、断熱材や防水材を自分で判断して選びたいという建て主も普通になっていくのかもしれません。そうした変化を「つくり手の裁量を狭める脅威」と考えるか、「より深い専門情報を示して信頼を得るチャンス」と考えるか──。日経アーキテクチュアとしてはもちろん、後者となるための情報を発信していきたいと思っています。