「シエスパ」爆発事故では刑事訴訟「有罪」
一般の感覚では、民事訴訟で設計者が設計報酬の何倍、何十倍もの補償を求められることは想像しにくいかもしれません。
そもそも、悪意があったわけではない設計者が刑事責任を問われることにも納得がいかないかもしれません。コストコ多摩境店事故の場合は、刑事訴訟では設計者の無罪が確定しましたが、刑事訴訟で設計者が有罪となるケースはあります。例えば 2007年6月に発生した温泉施設「シエスパ」の爆発事故です。
設計を担当した建設会社の社員は無罪を主張して争いましたが、2016年5月に最高裁判所は上告を棄却。禁錮3年、執行猶予5年とした一、二審判決が確定しました。設計担当者として保守管理に必要な留意点を施設運営者に十分伝達していなかった点が過失とされました。
それが建築訴訟の現実です。言い換えれば、それが「設計者の責任」の重さなのです。
建築訴訟は年々複雑化し、設計者が予期せぬ方面から訴えられるリスクが高まっています。生活基盤を脅かす訴訟から身を守るには、自身の担当可能な業務を明示し、事前の契約で防衛する知恵が必要です。
特集の最終章「建築訴訟から学ぶ 職域明示して契約書で身を守れ」では、建築紛争に詳しい専門家に、建築訴訟を遠ざけるポイントを聞きました。
- 設計・監理業務を軽々しく引き受けない
- 受け持てる「最低限」の業務を契約書に示す
- 建築訴訟の実態や仕組みを学んで備える
詳細は特集をお読みください。
人の命を奪おうと考えて設計の仕事をしている人はいません。それでも人命に関わる事故は起こってしまう。その多くの原因は、冒頭に書いたように「曖昧な役割分担」なのです。今、進めているプロジェクトの「役割分担」を改めて検証してみることをお勧めします。