10月13日号の特集は「激変するマンション建て替え」です。「激変」とは大げさな、と思われるかもしれませんが、実際、老朽マンションの建て替え事情はここ数年で様変わりしています。

 1つは、「事業費の自己負担が当然」となりつつあることです。

 建て替え前の専有面積と、建て替え後に無償で取得できる面積の比率を「還元率」といいます。かつてはほとんどの建て替え事例で、還元率が100%でした。ところが最近は、還元率が100%を切り、不足分を区分所有者が自己負担する事例が増えています。余剰容積が少なくて事業費を賄えるだけの保留床を設けられなかったり、建設費の高騰で事業費が膨らんだりする事例が相次いでいるのです。

 もう1つは「建て替え後に区分所有者が戻らない」ケースが目立ち始めたことです。

 還元率が100%を切ると、自己負担を背負い切れず、建て替えに賛成しても所有していた住戸の権利を売却して転出する人が出てきます。最近は転出者が増え、建て替え後も権利者として残る比率(戻り入居率)が低下する傾向にあります。

 これからのマンション建て替えは、従来、当然だと思われてきた「自己負担ゼロで建て替えた後のマンションにほとんどの区分所有者が住み続けるモデル」が崩れているという認識のもとに進める必要があります。そうしたなかで最良の事業スキームを組み、区分所有者の合意形成を図っていかなければならないのです。特集前半では、そのヒントとなる5つの建て替え事例を紹介しました。

  • 1.宮益坂ビルディング 「“大家コミュニティー”が主導」
  • 2.ビレッタ朝日「周辺敷地との共同化がカギに」
  • 3.大宮第一コーポ「建て替え後の戻り入居率は2割」
  • 4.千里山公団星8号「そして誰もいなくなった」
  • 5.石澄住宅「敷地の半分を宅地として売却」

 そして特集後半では、こうした変化を踏まえたうえで、国土交通省が建て替え促進のために整備している法制度や、建て替え後のコミュニティーの問題などについて、専門家に意見を聞きました。

 マンション建て替えに関わる建築実務者は、今はまだ少数かもしれません。けれども、今後の老朽マンションの増加を考えれば、それは大きな期待市場といってよいでしょう。仮に建て替え事業に関わらないとしても、新築マンションの計画に携わる実務者は、そのマンションが40年後、50年後にどうなるのかを考えておく責務があります。そういう意味で多くのヒントに満ちた特集です。ぜひご覧ください。