健康雑誌のダイエット特集は、夏にやると売れるという話を知人の編集者から聞きました。人は夏になると無駄を削ぎ落としたくなるのでしょうか。日経アーキテクチュア2017年8月10日号の特集は「光熱費はここまで下がる」です。

[画像のクリックで拡大表示]

 特集のリード(前書き)は、なぜ今このテーマを取り上げたかの説明から始まります。

 「真夏の電力使用量ピークを抑制する動きは、国民のコンセンサスとなっている。加えて、将来の経済状況が不透明な現在、建物の所有者は維持管理コストの低減を求めている。その大きな比率を占める光熱費削減は社会の要請だ。建物の性能や使い勝手を損なうことなく光熱費を下げる方法を知っていれば、顧客に新たな提案をする際の大きな武器になる」

 今回の特集では近年、光熱費の“大幅ダイエット”に成功した4つの事例を取材しました。

光熱費削減の成否
カギ握るデータ分析+最新技術

(1)京都駅ビル(京都市)
熱源光熱費を年間で6割削減

(2)東京国際フォーラム(東京都千代田区)
演出効果を損なわず照明交換

(3)弁天プラザビル(新潟市)
採算性確認して最新設備を導入

(4)成蹊学園(東京都武蔵野市)
30分ごとの電力量から無駄発見

 健康雑誌のダイエット特集であれば、減量目標は当初体重の5~10%でしょうか。それに対して今回の特集の冒頭ページには、軒並み2桁台のパーセンテージが並んでいます。

 もちろん、新たに改修費を投じて光熱費を下げるわけですから、ある程度大きな削減幅を期待できなければ事業採算が合わないわけですが、それにしても「水光熱費34%削減」「熱源光熱費59%削減」(いずれも京都駅ビルの場合)などと言われると、建築実務者ならば読まずにいられないのではないでしょうか。

京都駅ビルの水光熱費の削減率と、そのうち熱源光熱費の削減率。2012年に約8億7000万円だった熱源光熱費は、熱源設備を改修した後の16年には約3億6000万円で6割の削減となった。熱源設備の改修は16年5月までに完了していた(資料:京都駅ビル開発)
京都駅ビルの水光熱費の削減率と、そのうち熱源光熱費の削減率。2012年に約8億7000万円だった熱源光熱費は、熱源設備を改修した後の16年には約3億6000万円で6割の削減となった。熱源設備の改修は16年5月までに完了していた(資料:京都駅ビル開発)
[画像のクリックで拡大表示]

 4つの事例はそれぞれ用途や使用条件が全く異なります。けれども、全体を通して読むと、設備にそれほど詳しくない私にも光熱費を落としやすい“削りしろ”があるらしいことが分かってきました。そうした勘所は、改修設計だけでなく、新築の設計にも大いに役立つことでしょう。

 今回の特集は、2017年の最初の特集、「維持コストの真実 改修編」(2017年1月12日号)の続編です。日経アーキテクチュア購読者の方はそちらも改めて読んでみてください。

[画像のクリックで拡大表示]

背景
建設費以上の出費を抑えよ

(1)東京都庁舎
再使用や玉突きでコスト削減

(2)豊田スタジアム
屋根とスタンドの不整合があだに

(3)青森県庁舎
上層階減築で耐震改修費を抑制

(4)ロームシアター京都
保存のための復元には投資

 改修費、光熱費と来ましたので、残るライフサイクルコスト(LCC)の大物、「清掃費」についても、いずれ深掘りしてみたいと思っています。

 また、今号では前回の当コラムの最後に書いた新国立競技場現場での過労自殺の記事も掲載しています(過労自殺が伝えた「新国立」の現実)。そちらもぜひお読みください。

新国立競技場の建設現場を北東から望む。3月上旬に自死した新入社員の男性は2016年12月中旬から、地盤改良工事の施工管理担当者として働き始めた(写真:日経アーキテクチュア)
新国立競技場の建設現場を北東から望む。3月上旬に自死した新入社員の男性は2016年12月中旬から、地盤改良工事の施工管理担当者として働き始めた(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]