今号の特集タイトルは「報酬はまだ増やせる」です。「増やせる?」ではなく、「増やせる(断言)」です。さらに、メーンタイトルの上には「タダ働きはもうしない!」というキャッチコピーを付けました。それは本当なのか!?──おそらく誰もが読まずにはいられない“鉄板”の特集ではないかと思います。

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 編集長としては、そういう鉄板ネタを特集に据える方が逆に覚悟が必要になります。ともすると過去の同テーマの特集と似た内容になる、「読まれて当然」と考えて取材が浅くなり、読み応えのない記事になる……。そうしたリスクを伴うからです。

 これまで「報酬」をテーマにした主な特集のタイトルを振り返ってみました。

  • ・1992年9月28日号「正当な設計報酬~きちんともらうための理論と実践」
  • ・1996年5月6日号「設計報酬の真相~民間設計に立ちはだかる“料率3%”の壁」
  • ・1998年8月10日号「設計・監理『責任』と『報酬』の金額」
  • ・2001年5月28日号「追いつめられる設計報酬~『知的労働の生産性』論議、建築界に波及」
  • ・2009年4月13日号「報酬は新基準で増やせるか」

 直近(といっても7年前ですが)の特集「報酬は新基準で増やせるか」は、国土交通省が2009年1月に業務報酬基準、告示15号を施行したことを受けて企画したものでした。今回の特集は、昨年6月に改正建築士法が施行されてから約1年というタイミングで企画しました。士法改正で告示15号が定める報酬基準に従った契約締結が「努力義務」化されたことによる影響を見ようというのが、この時期に特集を組んだ狙いです。

 結果的には、冒頭の「過去の特集と似た内容にならないか」「読み応えのない記事にならないか」という不安は拭い去られた記事となりました。今回の報酬特集では、過去の特集で語られていなかった動きが大きく3つ出てきます。

 (1)若手の設計者を中心に、「成功報酬型」の契約を結ぶケースが現れたこと。

 (2)中大規模の設計事務所で、「図面作成」以外の様々な業務を別料金としてメニュー化する動きが本格化してきたこと。

 (3)大手建設会社でも、告示15号をベースにして設計・監理報酬を提示するケースが珍しくなくなったこと。

 過去の報酬特集を読み返すと、発注者の意識や国の報酬基準に対する“不満”がページの大半を占めていました。どの時代の記者たちも、具体的な打開策を示すのに苦労した痕跡がうかがえます。

 今回ももちろん不満の声はかなり出てきますが、(1)~(3)の前向きな動向が記事化できたことは、これまでにない成果といえると思います。それもあって、特集のタイトルは「報酬の現実」といったドキュメンタリー・タッチのものではなく、あえて「報酬はまだ増やせる」とポジティブなものにしてみました。あくまでつくり手側の自己評価なので、どれほどの内容かは実際の記事を読んでご判断ください。