日経アーキテクチュア2017年7月27日号の特集は「炎の死角」です。6月14日に発生したロンドン高層ビル火災をきっかけとして、大規模建築物の火災の危険性について専門家に取材しました。

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)
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 「死角」という言葉は、我々メディアの人間が“強調表現”として頻繁に使うので、読む側は「誰も知らなった事実」という意味合いで受けとるかもしれません。もちろん、なかには「誰も知らない死角」の場合もあるのでしょうが、「死角」の本来の意味は「その角度からでは見えない範囲」です。つまり、ある人からはよく見えているけれど、その人には見えない事実──。今回の特集の「死角」は、まさにそうした意味で使っています。

 ロンドン火災の第一報を目にしたとき、恥ずかしながら筆者は、「24階建ての高層ビルがあんなに燃えるなんて……」と、“初めての大災害”という認識で受け止めました。しかし、専門家に連絡をとってみると、それが“これまでも繰り返されてきた(対策を施していれば防ぐことができたかもしれない)事故”であることが分かりました。

 この火災についての日経アーキテクチュア・ウェブの第一報は、火災翌日に公開した下記の記事です。

「ロンドン火災『釜山、上海と似る』 早稲田大学建築学科、長谷見雄二教授に聞く」
(2017年6月15日公開)

 この「編集長が語る日経アーキテクチュアの見どころ」では、これまで何度か「専門家と非専門家の間のギャップ」について書いてきましたが、「専門家同士の間」にもギャップはあります。今回の火災は、それを改めて突き付けているように感じました。

 ロンドン火災のメカニズムや教訓については、本誌特集やデジタル版を読んでいただくとして、ここでは、これまで日経アーキテクチュア・ウェブ、日経ホームビルダー・ウェブに掲載してきた火災関連の記事を列記することにしました。ざっと見出しを読むだけでも、実務のヒントにしていただけるかもしれません。

「防火シャッター作動せず延焼拡大か、アスクル倉庫火災」
(2017年3月28日公開)

「木密地域の糸魚川大火が投じた“防火改修”の必要性」
(2016年12月27日公開)

「糸魚川大火、建物焼失4万m2の猛威」
(2016年12月26日公開)

「木くずや投光器だけじゃない、ダウンライトの住宅火災にも注意を」
(2016年11月16日公開)

「川崎で全焼の簡易宿泊所、違法建築か」
(2015年5月21日公開)

「有楽町火災で大混乱、都市防災の盲点あらわに」
(2014年1月14日公開)

「上海の高層住宅火災、背後に無免許溶接や違法下請け」
(2010年11年19日公開)

「外張り断熱工法は火に弱い? TVCC火災からの警鐘」
(2010年1月18日公開)

「TVCC火災は外断熱材の下階延焼で拡大」
(2009年10月16日公開)

 そして、今回のロンドン火災を受けて専門家に取材した記事は以下をご覧ください。

「外断熱の中高層建築物は総点検を 東京大学・野口貴文教授に聞く(前編)」
(2017年7月20日公開)

「外装材の安全確認を建基法に義務付けよ 東京大学・野口貴文教授に聞く(後編)」
(2017年7月21日公開)

「ロンドン火災、惨事の原因」
(2017年7月5日公開)

「ロンドン火災、外観形状も延焼の速さに影響か」
(2017年6月16日公開)

 事故があったときにだけ専門家に話を聞くのはメディアの悪いところではありますが、逆にいえば、こういうときにより多くの読者に危機意識を深く刻み込むこともメディアの役割と考えています。

 また、既にご存じかと思いますが、新国立競技場の建設現場で働いていた23歳の男性が、月に約200時間の時間外労働に従事させられ、ストレスから自らの命を絶ちました。日経アーキテクチュア7月27日号には間に合いませんでしたが、この事件についても取材中です。電通社員の過労自殺事件以降、国を挙げて「働き方改革」が叫ばれるなか、なぜこうした悲劇が繰り返されるのか。

 まずは、日経アーキテクチュア・ウェブと日経コンストラクション・ウェブで既に公開した下記の記事をご覧ください。今後さらに取材を進めていきます。

「『新国立』工期厳守の犠牲者、弁護士に直撃取材」
(2017年7月24日公開)

「若者の自死が伝えた『新国立』の現実」
(2017年7月24日公開)

「新国立で過労自殺、時間外200時間を会社は『把握せず』」
(2017年7月24日公開)

 同じ悲劇を二度と繰り返さない──。この記事を読んだ建築実務者の多くがそう思ってくれることを願っています。