人工知能(AI)がプロ棋士に勝利━━。そんなニュースを聞いて「ほお、すごいな」と思いながらも、どこか他人事に感じていました。おそらく私だけでなく建築関係者の多くは、これまでAIの進歩を建築設計と結び付けて考えてはいなかったでしょう。

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 日経アーキテクチュア7月14日号の創刊40周年記念特集「五輪後のキーテクノロジー(前編) 効率との戦い」を読むと、その認識は大きく変わりそうです。少なくとも私は、「五輪後に起こる変革の最大の要因は、『人口減』や『3Dプリンター』よりも『AI』かもしれない」と思うようになりました。

 今号と次号の特集では、コンピューターや機械の進歩が10年後の建築界に与える影響を、仮想の物語の形で描きます。もちろん単なる空想ではなく、物語内に描かれるエピソードの根拠は、ページ下段の囲みの中で具体的に示しました。つまり、下段が現在の最先端技術情報で、上段がそれらから推測した10年後の建築界の姿です。読み方は自由ですが、もしかしたら下段を先に読んだほうが、「ふむふむ」と納得しながら読めるかもしれません。

 前編に当たる今号は、コンピューターの進歩が設計や施工に与える影響を取材しました。そのなかで特に驚かされたのが冒頭に書いた「AIを用いた設計」の現状です。一部を引用してみましょう。

 「鹿島はAIとBIMを活用して施工計画を自動的に作成するシステムを開発している。(中略)敷地や完成させる建物などの情報を与えると、自動的に三次元での施工計画を立案する。建機や仮設部材などの情報をデータとして収納しており、過去の施工データなどをもとに機械学習し、計画案を示す」

 「グーグル社から独立したFlux社は、同社で開発した自動設計システムの事業化を図っている。建物の意匠や構造、設備の要素データを含んだ『建築の種』をパソコン上の敷地に配置すると、三次元モデルを自動生成する。法規制をクリアするように位置や高さ、長さなどを調整できる」

 念のため言っておきますが、これらは10年後の予測ではなく「現在」の話です。