日本にはプリツカー賞を受賞した現役の建築家が5組います。槇文彦氏(1993年受賞)、安藤忠雄氏(1995年受賞)、SANAA(妹島和世氏と西沢立衛氏のユニット、2010年受賞)、伊東豊雄氏(2013年受賞)、坂茂氏(2014年受賞)です。この四半世紀に5組ですから、平均すると5年に1組。日本の建築デザインは「世界に誇れるレベル」といってよい数字だろうと思います。

 ただ、「日本国内で世界に誇れるリノベーション建築は?」と聞かれたときに、正直、ぱっと思い浮かぶものがありません。欧州であれば、仏ルーブル美術館のガラスのピラミッド(1989年、設計:I・M・ペイ)を筆頭に、同リヨン・オペラ座(1993年、設計:ジャン・ヌーベル)、ドイツ連邦議会新議事堂(1999年、設計:ノーマン・フォスター)、英テート・モダン(2000年、設計:ヘルツォーク&ド・ムーロン)……と、名作リノベーションが次々と思い浮かびます。

 日経アーキテクチュア5月11日号の特集は、そんな海外の先端事例に学ぼうという企画です。タイトルは、「欧米に学ぶ リノベーションの潜在力~歴史と経験が生んだ『大胆発想』で改修市場に刺激を」です。

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 特集のリード文(前書き)を引用します。

 「もはや改修や増築に無縁という建築関係者は少数だろう。再生・刷新を意味する『リノベーション』という言葉も、あっという間に市民権を得た。

 しかし、日本の建築界がリノベーションに真剣に取り組むようになったのは、せいぜいこの20年。築100年超の建物を当然のように保全・改修してきた欧州や、初期モダニズム建築の老朽化が問題視されて久しい米国とは、経験値に大きな差がある。

 『地震がない国だからできること』『日本とは法規が違う』といった言い訳を口にする前に、まずは海外の大胆な手法に学ぶことも必要だ。

 同じことはできないとしても、元になった発想や視点には、日本のリノベーションの可能性を切り開くヒントが見いだせる」

 このリードは私が書きました。今回は編集長である私の“直轄”特集です。本当は、リードの最後に、「そして世界に誇れるリノベーション建築の実現を!」と書こうと思ったのですが、そこは行間から感じとってもらう形にしました。特集に並ぶビジュアルを見れば、「いわずもがな」だと思えたからです。

 特集で紹介しているのは以下の4つのプロジェクトです。

 どれも日本では類例を見つけづらそうな大胆リノベーションですが、なかでも目を引くのはザハ・ハディド氏の遺作でもある「ポートハウス」でしょう。

 既存のれんが積石造建築をまたいで、その上に宙に浮く形で増築する──。アイデアの斬新さ。それを実現してしまう技術力にまさに脱帽です。

 この記事に入りきらなかった施工過程の写真などを公開しました(こちらの記事)。

 また、特集に関連して、日経アーキテクチュア・ウェブで掲載してきた海外のリノベ―ション事例の記事をまとめてみました。こちらの記事をご覧ください。

 読者の方から時折、「元気の出る記事が読みたい」というご意見をいただくことがあります。少なくとも私は、これらの記事を読んで何だか元気が出てきました。写真を見るだけでも楽しいので、ぜひともご覧ください。