どうなる? 前川・村野の公共建築

 今号にはもう1つ、リノベーションの可能性を考えさせる記事があります。トピックス「揺れる前川・村野の佳作、活用案の現実性がカギ」です。

 取材・執筆はライターの萩原詩子氏ですが、この記事のリード文も私が書きました。

 「前川國男と村野藤吾──。東西の巨匠2人が昭和30年代に手掛けた公共建築が、存亡の瀬戸際に立っている。

 これまでの保存解体論議と異なるのは、自治体は自ら結論を出さず、再生活用の可能性を民間からの提案に委ねていることだ。

 現実的な活用策を問われたとき、保存派に何ができるのか。今後の保存運動の試金石ともなりそうな2つの事例を追う」

 取材した2つの事例とは、前川國男氏が設計した世田谷区民会館・区庁舎(東京都世田谷区)と、村野藤吾氏が設計した八幡市民会館(北九州市)の現状です。詳細は記事を読んでいただくとして、ポイントだけ言うと、どちらのプロジェクトも自治体が「活用提案」を民間に求めているのが注目点です。

2014年11月に撮影された八幡市民会館の遠景(中央の赤茶の建物)。市民会館の左下に見える旧図書館は2016年に解体された(写真:笠原 一人)
2014年11月に撮影された八幡市民会館の遠景(中央の赤茶の建物)。市民会館の左下に見える旧図書館は2016年に解体された(写真:笠原 一人)
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八幡市民会館の大ホール内。約1500人を収容する大ホールは、木の質感が特徴の柔らかな内装。天井は雲のような複雑な曲面を描く(写真:笠原 一人)
八幡市民会館の大ホール内。約1500人を収容する大ホールは、木の質感が特徴の柔らかな内装。天井は雲のような複雑な曲面を描く(写真:笠原 一人)
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 後者の八幡市民会館に関しては、取材終盤の4月13日、八幡市民会館リボーン委員会が市に大胆な活用提案を提出したというニュースが飛び込んできました。約1500人を収容する既存の大ホールを、屋内アスレチックのような「子どもの遊び場」に転用する、というものです。

 この提案に対する市の回答は、数カ月後になる見込みですが、「ホールを子どもの遊び場に」という発想は、これまでの日本のリノベーションになかった大胆さで、何だかワクワクしてきませんか。「世界に誇れるリノベーション」が実現することを期待せずにはいられません。