“余力”としてのステンドグラス構造

 早稲田鶴巻町Iビルは1~3階を事務所、4、5階をオーナー住戸にあてた併用住宅です。敷地面積は55.93m2で間口が約3mと平面が細長く、居室面積をできるだけ広く確保するために2.5mスパンの鉄骨ラーメン構造としました。4、5階のオーナー住宅はメゾネットで、南側の窓に面して2層吹き抜けを設けています。

 その吹き抜けと5階個室を仕切る部分に、縦2226mm、横2160mmの“ステンドグラス構造”の壁をはめて、耐震性を高めました。

 構造設計を担当した佐藤淳氏(佐藤淳構造設計事務所)がステンドグラス構造と呼ぶこの壁は、鉄骨のフレームに対してガラス面が圧縮ブレースの役割を果たします。何度も実験を重ねて性能を確かめたうえで、採用しました。

4階の居間・食堂・台所から、5階のステンドグラスの壁を見上げた様子。「窓を開けると4階の暖気が入るので、5階の個室は暖房がいらないほど暖かい」と建て主は話す(写真:安川 千秋)
4階の居間・食堂・台所から、5階のステンドグラスの壁を見上げた様子。「窓を開けると4階の暖気が入るので、5階の個室は暖房がいらないほど暖かい」と建て主は話す(写真:安川 千秋)
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 もともと鉄骨造だけで十分な耐震性を持つように設計しており、ステンドグラス構造の壁は、建築基準法上は“余力”として扱っています。詳細は当該記事をご覧ください。

 「なんだ余力か」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、私はむしろそこに可能性を感じました。

 この記事の冒頭で書いたように、「快適性」を犠牲にして安全性を高める手法はいくらでも考えられます。なぜ快適性が犠牲になるのか。多くの場合、それを建基法上の耐力壁にしようと考えるからです。けれども、そもそも建基法上の安全性は確保したうえでさらに高めようとしているわけですから、“余力”の安全技術は建基法から離れてもっと自由に発想してよいのではないでしょうか。「ステンドグラス構造」はそんな発想転換を促すものであるように感じました。

 そして、特集からは離れますが、「安全性と快適性」の発想転換になる事例をもう1つ。今号の建築日和で取り上げた国立台湾大学社会科学部棟図書館です。

(イラスト:宮沢 洋)
(イラスト:宮沢 洋)
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 イラスト1カットだけでは分かりづらいかもしれませんが、ランダムに立つ細い柱に不整形なトップライトから光が落ち、森の中の図書館のようです。「柱がたくさんあっても快適」、いや「柱がたくさんあるからこそ快適」と感じる空間でした。

 特集担当記者が曲折の末にたどり着いた「新発想の安全住宅」というテーマですが、意外に広がりのある“鉱脈”かもしれません。