意図したわけではありませんが、日経アーキテクチュア2018年2月22日号には、創刊以来の“不動の重大テーマ”と呼ぶべき記事がずらりと並ぶ形となりました。それは「漏水」「火災」「設計者選定」です。

 日経アーキテクチュアが創刊したのは1976年。新築プロジェクトのリポート記事だけでなく、建築に関わる様々な社会的事象を取り上げるメディアとして、読者の評価・信頼を得て今年、42年目に至っています。社会的事象には、時代によるはやり廃りもありますが、どの時代にも継続的に記事化してきたのが「漏水」「火災」「設計者選定(コンペ、プロポーザル、入札)」です。

 まずは、特集「水の死角 漏水トラブルと対策に見る設計・施工の急所」から。

 特集の冒頭では、竣工から2年半で30回の漏水が確認された岐阜市の「ぎふメディアコスモス」の漏水原因と対策を取材し、建築実務者が教訓とすべきポイントを整理。続いて、設計トレンドに潜む死角や、木造住宅のパラペットの納まりの難しさなどについて専門家に聞きました。

<特集目次>

 2つ目の「火災」は、Newsクローズアップの「札幌支援施設火災の教訓」。札幌市で1月31日に発生し、11人の命を奪った火災の現地リポートです。被害が拡大したメカニズムなどを取材しました。

 3つ目の「設計者選定」は、トピックス「検証・世田谷区庁舎プロポ」。前川國男建築の存廃を応募者に問う形となった東京・世田谷区庁舎プロポーザルで、区民会館の保存再生を提案した佐藤総合計画が昨年9月に設計者に選ばれました。上位案のうち資料提供が得られた2案を見ながら、選定過程を振り返りました。

 「フォーカス建築」や「フォーカス住宅」などのプロジェクト・リポートと違って、漏水、火災、設計者選定といったテーマは、取材した全員が記事を読んでハッピーということはまずありません。しかも、コツコツと裏付けをとり、勇気を持って辛口の記事を書いたとしても、1回の記事で世の中の流れが大きく変わることもありません。後で同じようなことが繰り返されるたびに、あのときに書いた記事は意味があったのかと、もどかしい気持ちになります。

 今号では詳報が間に合いませんでしたが、台湾東部地震リポートのような「地震被害」の記事もしかりです(「耐震工学の第一人者、和田章氏が読み解く台湾高層ビル倒壊の原因」ほか)。

台湾東部の花蓮市で地震被害を調査する和田章・東京工業大学名誉教授(左)。右の2人は構造エンジニアで台南市結構工程技師公会の施忠賢常務理事(中)と彭光聡氏(右)。2月11日に撮影(撮影:菅原 由依子)
台湾東部の花蓮市で地震被害を調査する和田章・東京工業大学名誉教授(左)。右の2人は構造エンジニアで台南市結構工程技師公会の施忠賢常務理事(中)と彭光聡氏(右)。2月11日に撮影(撮影:菅原 由依子)
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 それでも、建築の専門領域における“負の情報”を発信するのが我々を含めごく限られたメディアだけである以上、どうしたら建築界や一般社会への影響力を高めることができるのか、常に自問自答しながら書き続きていく責務があると考えています。そんな書き手の思いを少しでも想像しながら、それぞれの記事を読んでいただければ幸いです。