RC造に近づく木造ビルの建設コスト

 木を主要な構造材に使用した高層ビルが、欧州や北米で次々に計画されているのはなぜか──。詳細は動向解説記事「高さ競争では欧米が先行」を読んでいただきたいのですが、理由の一部を引用します。

 「海外の高層木造の建設コストや延べ面積をもとに、日経アーキテクチュアが床面積1m2当たりの建設コストを割り出した結果は約27万円だった。実用化の進展でCLT(直交集成板)などマスティンバーのコストは下がっている。海外では日本の数分の1の価格でCLTを調達できる例もある。結果、海外の木造ビルの建設コストはRC造に近づいてきた。

 実際に海外の高層木造プロジェクトを進める事業者や設計者の多くは、高層木造ビルの建設コストがRC造のビルに比べて5~10%高い水準に収まっているという見方を示す。そして今後、実績が増えるにつれて設計などに要する手間が減り、さらなるコスト削減を図れる見通しを持つ」

日経アーキテクチュアが取材で得た建設コスト(設計費などを含む場合もある)と延べ面積をもとに、原点を通る一次関数として近似曲線を求めた結果。傾きとして表れる高層木造(混構造を含む)の建設単価は、床面積1m2当たり約27万円だった
日経アーキテクチュアが取材で得た建設コスト(設計費などを含む場合もある)と延べ面積をもとに、原点を通る一次関数として近似曲線を求めた結果。傾きとして表れる高層木造(混構造を含む)の建設単価は、床面積1m2当たり約27万円だった
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 もちろんその前提には、環境問題によるCO2削減の要請があるわけですが、民間事業者が木造を採用するには「環境に配慮している」というメッセージ性だけでは不十分で、当然、「現実的なコスト」でつくれるものでなければならないのです。

 それでは、先行する欧米並みに需要が増えれば、日本の木造ビルもコストは自然に下がるのでしょうか。それを考える際、日本国内の「厳しすぎる耐火基準」に疑問符を付ける人も少なくないようです。例えば、各国で木造建築を手掛けている建築家の坂茂氏はその1人で、本特集ではこう発言しています。

 「戦後、日本は一気に木造建築をやめた。加えて、必要なさそうな法規を定めたことで世界から遅れてしまった。例えば、木材の燃えしろに燃え止まりを設けるといったルールには合理性がない。国内では法規に沿った部材も開発されているが、世界では通用しない技術になっている。こうしたルールが日本の木造技術をガラパゴス化させてしまった」

 その通り、と思った人も多いかもしれません。ただ、一方で、糸魚川大火のような大災害が起こると、都市部の木造の耐火基準を不安視する見方も増えるでしょう。単純に、「耐火建築物に燃え止まりは不要」という議論には向かわないように思います。

2016年末の糸魚川大火で被災した建物。躯体が残る幾つかの建物は火災の恐ろしさを伝えている(写真:日経アーキテクチュア)
2016年末の糸魚川大火で被災した建物。躯体が残る幾つかの建物は火災の恐ろしさを伝えている(写真:日経アーキテクチュア)
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 日本の高層木造が目指す道は、単に欧米の追随ではなく、「燃え止まりを設けてもコストはRC造並み」という方向かもしれません。高いハードルではありますが、世界最古の木造建築物を持つ日本にとって、目指すに値する目標なのではないでしょうか。