2017年最初の特集は、「維持コストの真実 改修編」です。正直に言うと、この特集は我々自身の“勉強”も兼ねて企画しました。「ライフサイクルコスト」という言葉を記事中で使うようになって久しいものの、その算出根拠がいまひとつよく分かっていなかったからです。

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 それは社会全般にいえるのではないかと思います。2016年終盤、東京都が五輪に向けて整備する3つの競技施設のコストが社会的な関心時となりました。このとき、建設費だけでなく、維持管理に年間いくらかかるのか、長期にわたる事業収支はどうなのか、といった報道が連日メディアをにぎわせたのは記憶に新しいところです。

 ただ、そうした報道のなかで、維持管理費の内訳を詳細に分析した資料を目にすることはありませんでした。メディアもそこまで追求する時間やエネルギーがなかったのかもしれませんし、もしかしたら詳細な内訳データは存在しないのかもしれません。いずれにしても、一般社会の関心はまだそれを追求するほどには高くないようです。

 けれども、今後はそのあたりへの関心も急速に高まることは間違いありません。新たな公共施設をつくることが本当に必要かどうかを考えるとき、建設費よりも、むしろ維持管理費を精査することが重要であることは冷静に考えればすぐに分かることです。

 特集のなかで、日本ファシリティマネジメント協会の沖塩荘一郎顧問はこう語っています。「建物の用途などによって違いはあるものの、一般的に50年間の修繕・改修費は、新築時の建設コストと同等だ」

 つまり、50年の寿命を想定して公共施設を計画した場合、建設費と修繕・改修費はほぼ同等になり、修繕・改修費に光熱水費や清掃費などを加えれば、建設費をはるかに上回る金額になる、ということです。

 今回の特集では当初、光熱水費や清掃費など維持管理費全般を扱うつもりでしたが、専門家への取材や地方自治体への情報公開請求などを進めるうちに、話が拡散し過ぎる雲行きとなってきたため、第一弾としては「改修費」に絞ることにしました。

 実際、地方自治体に取材をしてみると、彼らを特に悩ませているのが、竣工から20年程度で訪れる大規模改修だということが分かりました。光熱水費や清掃費といった日常的な維持費用も大きな金額になりますが、それらはいったん施設の運用が始まると、毎年それほど金額が変わりません。運用開始直後に「こんなはずでは…」というケースはあるものの、2年目以降は資金計画を立てやすいのです。一方、大規模改修は、ある時期に急激に大きな費用が必要となり、建物の存廃や機能の在り方などを含め、発注者は大きな投資判断をしなければならなくなります。

 見方を変えると、大規模改修は“逆転のチャンス”でもあります。工夫によっては改修の工事金額自体を大きく減らしたり、その後の維持管理費を長期にわたって減らしたりすることができます。

 そこで今回の特集では、4つの公共施設の大規模改修の工夫と教訓を取材しました。

(1)東京都庁舎

「再使用や玉突きでコスト削減」

(2)豊田スタジアム

「屋根とスタンドの不整合があだに」

(3)青森県庁舎

「上層階減築で耐震改修費を抑制」

(4)ロームシアター京都

「保存のための復元には投資」

 それぞれの詳細は、特集をじっくりとご覧ください。また、今回は「改修編」として範囲を絞りましたので、それ以外の維持管理費については、年内に改めて取材してみたいと考えています。いずれは我々も、「正しいライフサイクルコストの試算方法」を地方自治体に指南できるくらいのレベルになりたいところです。

 それでは2017年も日経アーキテクチュアをよろしくお願い申し上げます。