愛知県の姿勢が問われている

 愛知県のコンセッション事業の目的は、(1)民間における新たな事業機会の創出、(2)民間の創意工夫による低廉で良質なサービスの提供、(3)沿線開発を含めた地域経済の活性化――である。これまでに説明した通り、「地域経済の活性化」に限れば、ネクスコ中日本が参加することが目的達成の近道であることは明らかだ。

 こうした事情は、ほかの民間事業者も察しており、複数の企業がネクスコ中日本と組もうと試みている。ネクスコ中日本は1社なので、同社のグループ企業と連携する動きもあるようだ。県に確認したところ、一つの企業グループの会社が、別のチームに分かれてエントリーすることは認めない方向だ。要するにネクスコ中日本と組めるのは1チームだけ。よってネクスコ中日本の奪い合いは、さらに激しさを増す。

 三つの目的のうち「民間における新たな事業機会の創出」「民間の創意工夫」に目を向けたとき、ネクスコ中日本の参入を許すのが正しい道なのかどうか、大村知事や県関係者、事業者選定委員会のメンバーは冷静に考えなければいけない。以前にも書いたことだが、ある政府関係者は「ネクスコ中日本に任せるなら、わざわざ面倒な特区制度を用いる必要はない。業務委託で済む」と話している。

 日本初の道路のコンセッションには、海外からの注目も集まる。多くの民間事業者をその気にさせておいて、純民間事業者とはいえない圧倒的優位な立場のネクスコ中日本が運営権を取るストーリーは、公平な選定には見えない。公平を装った不公平は、茶番劇とみなされる。国が成長戦略の中軸として掲げるコンセッション方式への期待も薄れるだろう。

 民間事業者に余計な時間とコストをかけさせないためにも、愛知県はできるだけ早く答えを出す必要がある。もしネクスコ中日本の参加が県にとっての最適解なら、初めから県のパートナーとして特別扱いした方がましだ。一民間事業者としてネクスコの参入を許すなら、誰もが納得できるような丁寧な説明を求めたい。

 愛知県は今年11月に募集要項を公表し、審査を経て2016年7月までに優先交渉権者を決定する。16年10月には事業を開始する計画だ。

菅 健彦