内閣官房の審議会は、年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF)をはじめとする公的年金の運用改革に向けた報告書をまとめた。11月20日に発表したのは、「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」の報告書だ。不動産を含むオルタナティブ投資の解禁や、基金本体よりもアクティブな運用を認めるベビーファンドの創設をうたっている。

 報告書は同日、甘利明経済財政・再生相に提出された。今後は2014年初頭にかけて年金行政の主管庁である厚生労働省の委員会で、運用計画策定の前提となる人口・労働力推計や経済見通しを検討。2015年3月までに、新たな基本ポートフォリオを決定する。オルタナティブ投資の対象としては不動産やREIT(不動産投資信託)、インフラ、プライベートエクイティ(未公開企業投資)、コモディティ(商品)などを想定している。報酬上限の緩和による専門人材の確保やガバナンスの改革も盛り込んだ。

 有識者会議の座長を務めた東京大学大学院の伊藤隆敏教授は、政府・日銀のインフレターゲット政策を理論面で支えるキーパーソン。今回の改革を、厚生労働省の協力のもと「かつてないスピードで進んでいる」と話す。2008年に同教授らが経済財政諮問会議でまとめた運用改革案が、厚労省の反対によって実現しなかった経緯を念頭に置いた発言だ。

 運用改革はアベノミクス「3本の矢」の3本目にあたる「日本再興戦略」の重要政策の一つで、審議会は内閣官房の日本経済再生本部に置かれている。伊藤教授は市場関係者の過度な期待をいさめるように「あくまで受給者にとっての長期的リターンが大事で、デフレ脱却は目的ではない」と強調するが、改革は懐疑論を乗り超えて実現への発射台に立ったといえる。



運用改革に向けた工程表(資料:内閣官房)