不動産を愛するビジネスパーソンのために――というメッセージを添えて、ニッセイ基礎研究所 不動産投資チームが『不動産ビジネスはますます面白くなる』(日経BP社)を著した。執筆の意図について、著者代表の松村徹氏(ニッセイ基礎研究所 不動産研究部長)に聞いた。3回に分けて掲載する。


――この本を執筆したきっかけは?

松村 世の中にまん延している少子高齢化悲観論を払拭したいという思いで書いた『少子高齢化時代の不動産ビジネス・フロンティア』という研究所のレポートがきっかけです。東日本大震災によって社会や経済の価値観が大きく揺らいでいたこともあり、未来志向で不動産ビジネスのあり方を見直すことを意図しました。

松村徹氏(ニッセイ基礎研究所 不動産研究部長)

 このレポートの評判がなかなかよかったので、それならシンクタンクらしいエッジの効いた切り口で、これからの不動産ビジネスを考えてみようということになりました。しかし、少子高齢化だけでは、伸び代がさほど大きいわけではありません。グローバル化やIT化など、その他の環境の変化を含めて考えてみました。研究所のレポートは本の入口ではありますが、中身は全く違うものになっています。

――どんな人たちに読んでもらいたいですか。

松村 仕事柄、不動産を不動産金融もしくは不動産マーケットという機関投資家目線で見てしまいがちですが、私自身は街や建物、建築に関する新製品、植栽などが気になるタイプの人間です。マンション管理組合の理事長を経験したこともあって、日々の生活のなかにある不動産の問題に強い関心があります。

 不動産はやはり現場が大事です。書籍の冒頭に「こんな人に最適です」ということで、街の変化や建物のデザインに敏感な人など、七つのタイプを挙げているのですが、そのほとんどが自分に当てはまります。どんな人に読んでもらいたいかというよりも、まずは自分が面白いと思えることを書きました。この本は、25年間シンクタンクで不動産関係の仕事をしてきた私の卒業論文だと思っています。

――少子高齢化でも、本当に不動産ビジネスは成長できるのでしょうか。

松村 悲観的に語られることの多い少子高齢化ですが、その影響を不動産ビジネスの領域別に丁寧にみてみると、ホテルや商業施設、物流施設、海外不動産など少子高齢化の影響を直接受けない領域や、シニア不動産や不動産運用のように、むしろ成長が期待できる領域があることがわかります。例えば、シニア不動産マーケットはこれから大きく成長するでしょう。

 マーケット規模の縮小が予想される住宅やオフィスの領域でも、新しいビジネスを拡大できる可能性があります。過去のビジネスモデルや価値観にしがみつかず、未来志向と顧客志向で考えれば、少子高齢化も新たな成長のチャンスにほかならないといえます。要するに、過去と同じやり方や領域で過去と同じ業績を上げるのが難しくなっただけで、時代やマーケットの大きな変化に対応した新しいビジネスモデルを構築すれば、成長機会はまだたくさんあるということです。

――どんな変化が不動産分野に起きているか、少し挙げてみてください。

松村 例えば、海外の富裕層が日本の高級分譲マンションを買うのが珍しくなくなりました。インターネットの普及でネット通販やネットスーパーが当たり前になった結果、リアルな商業施設のあり方は変わり、一方で新機能の大型物流施設に対する需要が拡大しています。ホテルはネットでの予約が普及した半面、ネット上での価格競争にさらされています。

 新築のオフィスビルや大型マンションで、省エネ性能や防災機能の高さをアピールしていない物件はありません。スマートフォンやノートパソコンを使ってバーチャルなオフィスワークが可能になった今、リアルなオフィスビルビジネスのあり方も変わっていかざるをえないでしょう。(次回に続く)

不動産ビジネスはますます面白くなる

不動産ビジネスはますます面白くなる

  •  定価:2,310円(税込)
  •  ニッセイ基礎研究所 不動産投資チーム
     (松村徹/竹内一雅/岩佐浩人/増宮守)著
  •  A5判、208頁
  •  2013年8月5日発行

聞き手:丹治明香(フリーランス)