どこから見ても同じ建物、実は測る人によって面積が違う--。不動産業界ではよく聞く話だが、これが今後、国際会計基準(IFRS)の導入に絡み、各国で大きな問題としてクローズアップされそうだ。世界最大の不動産コンファレンス、MIPIMに出席したRICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)の標準化担当ディレクター、Ken Creighton氏は指摘する。

 世界には欧州大陸系の平方メートル、英米系の平方フィート、あるいは坪といった単位がある。またマンションなどの床面積を測るのに壁芯と内法(うちのり)という2種類の測量方法が使われるのはご存じだろう。天井の高さにも種類がある。各国の測量事情を調べたCreighton氏の話によると、さらに我々の想像を超えたやり方で測量を行う国も存在するようだ。

 例えば、中米カリブ海の島々では、平面駐車場を建物面積に含めている。スペイン人は屋外プールを建物の一部とみなす。そして中東の一部では、実際の階数に基づく床面積ではなく、“建築可能であるはずの”仮想の階数に基づいて建物面積を計算しているという。例えば現実には10階建ての建物だとしても、13階建ての建物が建築可能な土地の上に立っていれば、13階あるとみなして建物面積を算出するのだ。

 収益還元法による不動産評価では、こうした違いへの無理解が積み重なり、大きな金額の誤差につながる恐れもある。また、基準の曖昧さは、不動産業界の職業倫理上の問題でもある。物件を売るとき、大きな数字になる計測方法を故意に選ぶ業者も多いという。


来客でにぎわうMIPIMのRICSブース(写真:篠田香子)

計測方法の国際基準が登場、IFRS導入の基盤に

 企業がグローバルに生産拠点を分散し、クロスボーダー投資が普及するなかで、こうした違いを放置しておけばどうなるか。世界120カ国が採用し、日本でも一部大手企業での任意適用が進んでいるIFRS(国際財務報告基準)が、半ば意味をなさなくなる。不動産は企業の資産勘定の上で大きな部分を占めるが、決算書の上では無味乾燥な金額として記録されるだけだ。その意味するところが国によってまちまちなら、比較可能性が損なわれてしまう。

 MIPIM会場でアナウンスされたInternational Mesurement Standards(IMS)は、上記のような問題意識のもと、RICSが旗振り役となって他の不動産業界団体や国際機関と共同で立ち上げた計測方法の標準化プロジェクトだ。IFRSと関係が深い国際評価基準委員会(IVSC)をはじめ、APREA(アジア太平洋不動産協会)、ASEAN(東南アジア諸国連合)、CRE(米国不動産カウンセラー協会)、ブラジル、インドからの参加を含む合計15の団体が協議に加わった。5月初頭には、同プロジェクトを支援する世界銀行のワシントン本部で、正式に組織を立ち上げる予定だ。

 「規格書を作るのは簡単だが、大事なのは普及させること」と語るCreighton氏は、今ある各国の測定方法をIMSで置き換える考えはないという。両社の関係には、日本独自の会計基準とIFRSのアナロジーが当てはまる。企業は両方の基準で決算書を作ることができ、手間をかければ相互の変換も可能だ。今回のプロジェクト立ち上げを機に、日本の関連団体へも参加を呼びかけていく。

本間 純